労働時間と安全配慮義務に関する最近の裁判例
恒常的な長時間労働を是正せずに放置した結果、労働者が心身の健康を損なった場合、使用者は安全配慮義務違反があったとして損害賠償責任を負うことになります(労働契約法第5条、民法第415条)。
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
裁判所は、発症前に概ね月100時間を超える時間外労働があった場合には、使用者の安全配慮義務違反を認定していると言えます。
【安全配慮義務違反を認めた裁判例と労働時間】
・ライフ事件(大阪地裁平成23年5月25日判決):月110~179時間の時間外労働
・建設技術研究所事件(大阪地裁平成24年2月15日判決):月135時間の時間外労働
・フィット産業事件(大阪地裁平成22年9月15日判決):月120時間超の時間外労働
・エージーフーズ事件(京都地裁平成17年3月25日判決):1日平均労働時間が約12時間、休日は月2日程度
・社会保険庁事件(甲府地裁平成17年9月27日判決):死亡の前月に約94時間、死亡直前1週間に約48時間の時間外労働
・スズキ事件(静岡地裁浜松支部平成18年10月30日判決):月104時間51分の時間外労働
・積善会事件(大阪地裁平成19年5月28日判決):自殺前1か月に105時間32分、6か月平均約100時間の時間外労働
・山田製作所事件(福岡高裁平成19年10月25日判決):自殺前1か月に110時間06分、自殺前1か月から2か月の期間に118時間06分の時間外労働
・富士通四国システムズ事件(大阪地裁平成20年5月26日判決):発症前1か月に約114時間03分、6か月平均105時間01分の時間外労働
・JFEスチールうつ病自殺事件(東京地裁平成20年12月8日判決):うつ病発症時期に月108~150時間30分の時間外労働
・アテスト(ニコン熊谷製作所)事件(東京高裁平成21年7月28日判決):15日間で91時間47分の時間外労働
・九電工事件(福岡地裁平成21年12月2日判決):発症2か月前176時間21分、発症前6か月平均約151時間の時間外労働
・メディスコーポレーション事件(前橋地裁平成22年10月29日判決):自殺前6か月間に月92~228時間の時間外労働
・フォーカスシステムズ事件(東京高裁平成24年3月22日判決):約110時間の時間外労働
また、月80時間を超える時間外労働があった場合には、業務の質的過重性やサポート体制がなかったこと等を考慮して、安全配慮義務違反を認める傾向があります。
【安全配慮義務違反を認めた裁判例と労働時間】
・マツダ事件(神戸地裁姫路支部平成23年2月28日判決):担当業務が質的に明らかに過剰。死亡の1~2か月前の時間外労働時間は優に80時間を超えていた。
一方、使用者の安全配慮義務違反を否定した裁判例は以下の通りです。
【安全配慮義務違反を否定した裁判例と労働時間】
・前田道路事件(高松高裁平成21年4月23日判決):63.9~74.2時間の時間外労働について「恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していたとは認められない」とした。
・ボーダフォン事件(名古屋地裁平成19年1月24日判決):うつ病を発症するまでの間、月47~69時間の時間外労働があったが、休日出勤は1回のみであり有給休暇を5日とっていたことからすると、業務内容および業務量が社会通念上許容される範囲を超える過剰なものであったということはできず、うつ病発症との相当因果関係はないとした。
・佐川急便ほか事件(仙台高裁平成22年12月8日判決):1か月26時間44分、6か月平均約60時間の時間外労働
・北海道銀行事件(札幌高裁平成19年10月30日判決):1か月約60時間の時間外労働
時間外労働が月80時間を超えると、安全配慮義務違反が認められやすくなり、使用者が巨額の損害賠償責任を負うという事態に陥りかねません。
企業の経営を守るために、そして労働者の健康を守るために、時間外労働が月80時間のラインを超えることの無いよう、労務管理を徹底することをおすすめします。
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