タイムカード・ICカードの打刻時間と労働時間の立証
未払い賃金請求や、労働災害(脳心臓疾患・精神障害)についての損害賠償請求などの事案で、最も重要になるのが、労働時間が何時間であったかの立証です。
裁判では、機械的に記録された客観的証拠が重視されるため、タイムカードやICカードを導入している会社については、その記録が労働時間を推認させる重要な証拠となります。
しかし、ここで気を付けなければいけないのは、タイムカードやICカードで把握されるのはあくまで出社時刻(会社に着いた時刻)と退社時刻(会社を出た時刻)なのであって、始業時刻(使用者の指揮命令下での労働を始めた時刻)と終業時刻(同労働を終えた時刻)とは限らないということです。
例えば、労働者によっては、満員電車を避けるために早く出社して始業時刻までデスクで新聞や雑誌を読んでいたり、仕事が終わっても同僚とダラダラおしゃべりしていて会社を出るのが遅くなったり、というように、出社してはいるけれども労働していない時間があるというケースも往々にしてありますよね。
そのような場合には、たとえ労働者側からタイムカードやICカードの記録が労働時間の証拠として出されていたとしても、会社の側から、「その打刻時間内であっても労働時間に含まれない時間がある」として反証していく余地は十分にあるわけです。
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この点に関連する裁判例を2つご紹介します。
オリエンタルモーター事件(東京高判平25.11.21労判1086号52頁)では、第一審が入退場を記録するICカードによって労働時間を認定したのに対して、控訴審は、「(本件では)ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちに…時間外労働をしたと認めることはできない。」と判断し、第一審を取り消しました。
また、プロッズ事件(東京地判平24.12.27労判1069号21頁)では、「使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である。ただし、上記推定は事実上のものであるから、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である」と判示されています。
結局のところ、会社の側で、労働時間(労働者が実際に使用者の指揮命令下に置かれていた時間)を客観的かつ合理的に証明できる証拠を出せるかどうかが決め手となるわけです。
もしそのような証拠を出すことができなければ、タイムカードやICカードの記録をもとに労働時間を認定されてしまい、会社としては不本意な額の割増賃金を支払うことになったり、長時間労働により疾患が生じたとして多額の損害賠償義務を負うことになったりするのです。
会社としては、それらのリスクを回避するために、トラブルが発生する前の段階で、タイムカードやICカードの運用方法や労働時間の把握方法をしっかりと整備しておくことが肝要です。
実際にどのような制度設計をすべきかにつきましては、会社の規模や業務内容によっても異なってきますので、個別にご相談いただければ幸いです。
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