連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第69回 「マイナンバー制度」と会社の税務(2)~取得時の対応~
「マイナンバー制度」と会社の税務(2)~取得時の対応~
Q 民間の事業者である会社が、従業員等からマイナンバー(個人番号)を取得する際の注意点は何でしょうか。
A 個人番号を取得する際には、事業者は、本人確認を実施する必要があります。本人確認書類のコピーを保管するかは悩みどころですが、法令遵守状況を立証する利便性と、安全管理の対象が増えてしまう負担との兼ね合いで判断するほかありません。また、個人情報保護法の適用により、利用目的の特定と通知等が必要です。同法の適用対象となる事業者は限られていましたが、改正により殆どの事業者に適用が広がる見通しです。なお、個人番号の利用できる範囲は番号法に定められていますので、特定・通知すべき利用目的も同法の範囲内で設定することになります。
(解説)
1.マイナンバー制度
平成27年10月から個人番号(マイナンバー)を記載した「通知カード」が送付されます。また平成28年1月からは、申請した希望者には、通知カードと引き換えに写真付きの「個人番号カード」が配布されます。いよいよ、マイナンバー制度の導入が本格化してきました。
マイナンバー制度の根拠法である番号法は、個人番号の取得(収集)・保管・利用・提供(法人格を跨いで個人情報を外部に提供すること。たとえば行政機関への提出や、税理士への委託など。)・廃棄に至る一連の過程につき、厳しく規制を設けています。法定の規制を遵守しない事業者は、特定個人情報保護委員会の勧告・命令を経て刑事罰が科される可能性があります(同51条、73条)。また、杜撰な個人番号の管理により情報が漏えいした場合、事業者に対して損害賠償請求がなされるリスクもあります。各事業者は、早急に個人番号の管理体制を敷くべきです。
今回は、喫緊の課題である取得時の処理を中心にポイントを解説します。
2.個人番号の取得
(1)本人確認
ア.番号確認と身元確認
事業者が個人番号を取得する際には、厳格な本人確認が要求されています。本人確認とは、正しい個人番号であることの確認(番号確認)と番号の持ち主であることの確認(身元確認)を合わせたものです。
番号確認は、行政機関の発行した個人番号記載の書類、具体的には個人番号通知カード、個人番号カード、あるいは住民票の記載などにより行います。住民票に番号が記載される時期は平成28年1月以降となる可能性があるので、平成27年内に番号を取得したい事業者は、通知カードか番号カードにより番号確認を行うことになりそうです(その意味で、会社の従業員にはくれぐれもカードを紛失しないよう呼びかけておくべきでしょう。)。
身元確認は、基本的に行政機関の発行する写真付きの書類、具体的には運転免許証やパスポートなどで行います。なお、身元確認については、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかに判定できると「個人番号利用事務実施者」(つまり行政機関のこと。事業者が勝手に判断できるわけではない。)が認めるときは、身元確認の書類の提示は不要とされています(番号法施行規則3条5項)。具体的には、たとえば国税分野での利用に関しては、雇用契約成立時に本人であることの確認(免許証や写真付学生証での本人確認など。)を行っている従業員につき、通知カードを持参させ、対面で(郵送はダメ)その者を確認する方法などがあります(詳しくは、国税庁「国税分野における番号法に基づく本人確認方法(事業者向け)」を参照してください。)。
なお、本人確認は郵送でも実施可能です。郵送の場合は確認書類のコピーを送ってもらうことになります。
イ.代理人からの提供の場合
代理人から本人の個人番号の提供を受ける場合は、①委任状などの代理権を確認できる書類、②代理人の身元確認書類(免許証、パスポート等)、③本人の番号確認書類(通知カード等)を確認します。
代理人による場合の具体例として、国民年金の3号被保険者(サラリーマンの配偶者)の届出に関し、配偶者本人が事業者に届出を行うものとされているため、従業者を代理人として本人たる配偶者の番号確認を行う場合などが想定されているようです。ただ、郵送で本人確認を実施する場合であれば、あえて代理人を介在させる意味はないので、直接、配偶者本人から本人確認書類を郵送してもらうことになるでしょう。
ウ.本人確認書類は保管すべきか?
なお、本人確認の際に、個人番号カードのコピーなどを取得した場合、そのコピーを保管すべきでしょうか。法令上は保管の義務はありませんが、保管しておけば、適切に本人確認をした事実を事後的に証明するには便利です。他方、保管したコピーは厳格な安全管理措置や、適時の廃棄の対象となりますので、それだけ負担が増えます。本人確認をしたことの事実は、確認者と確認方法を綿密に記録させるなどで証明することとし、コピーそのものは直ちに廃棄してしまうというのも一つの方法でしょう。
(2)利用目的の特定等
情報を取得するに際しては、利用目的をできるだけ特定し、また当該利用目的を本人に通知(または公表)することが求められています(個人情報保護法15条1項、18条1項)。
利用目的の特定・通知等は、個人情報保護法の適用される個人情報取扱事業者に限った規制です。これまでは、6か月間に5000人分の個人情報をデータベース化して事業活動に利用していない限り「個人情報取扱事業者」に該当しないものとされていたため、規制の適用範囲は限定的でした。しかし、このほど同法の改正法案が成立する見通しとなり、この5000人要件は撤廃されるため、同法の適用対象は飛躍的に広がることになります(改正法施行時期は未定)。
なお、個人情報保護法では、利用目的の特定・通知等さえ実施すれば、利用目的そのものは事業者が自由に設定できますが、個人番号との関係では、個人番号を使用できる範囲が社会保障分野と税分野に限定されているため、その範囲内で目的を設定することになります。
(3)提供要求の制限等
事業者は、番号法の定める個人番号関係事務を処理するために必要がある場合に限り個人番号の提供を求めることができます(番号法14条1項)。たとえば従業員に対して給与の源泉徴収事務や、健康保険の届出事務を行うなどです。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 島村謙
※ 本記事の内容は、平成27年8月末現在の法令やガイドラインに基づいています。
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