連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第65回 資本的支出と修繕費の境目
資本的支出と修繕費の境目
Q.自動車部品の製造を行う当社は、工場をはじめとして製造に係る機械装置等、固定資産を数多く有しています。老朽化が進めば新品への交換等を行うことももちろんありますが、まだまだ現役で使えるものについては修理を行って対処しています。ところが、これらの修理に掛った費用について当社が修繕費(支出した事業年度の費用)として処理していたところ、税務調査の際に「修繕費ではなく資本的支出に該当するから修正申告をするように」と言われるものがあります。
当社では一事業年度に複数の機械の修理を行うため、支出する金額も少なくなく、所得に与える影響もかなりのものとなります。
資本的支出とするか修繕費とするかの判断についての基本的な考え方と例を教えてください。
A.法人が支出した固定資産の修理、改良等のための金額が「資本的支出」に該当するか、すなわち資産に計上して以後耐用期間にわたり徐々に費用化していくか、「修繕費」に該当するか、すなわち支出した全額が当期の費用とするかにつきましては、その境目の判定が難しいことが多いため、税務調査で納税者と当局との間で見解の相違が起きやすい事項です。
「資本的支出」と「修繕費」の基本的な考え方を抑えた上で、取引の都度、記録を残しておくことをお勧めします。
【解説】
税務上の扱いでは、資本的支出とは、修理、改良などその名義のいかんを問わず、固定資産について支出する金額のうち、(1)使用可能期間(耐用年数)が延長されると認められるもの、若しくは(2)価額が増加すると認められるものをいいます(法人税法施行令132条参照)。
一方で、修繕費につきましては、固定資産本来の用途及び用法を前提として通常行われる維持、補修の費用であって、その固定資産の使用可能期間を延長させたり、その価値を増加させたりしない支出をいうものと考えられますが、資本的支出に該当するか修繕費に該当するかの判定はかなり難しいものとなります。
したがいまして、実務上の便宜を考慮して、その判断の参考とするために、法人税基本通達において、資本的支出及び修繕費について一般的な事例が示されています。
1 資本的支出の例
どのようなものが資本的支出に該当するかにつきましては、法人税基本通達において次のようなものが例示されています(7-8-1)。
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。(昭55年直法2-8「二十六」により追加) (1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額 (2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額 (3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額 (注) 建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。 |
2 修繕費の例
一方で、修繕費とはどのような支出をいうのかにつきましては、法人税基本通達において次のようなものが例示されています(7-8-2)。
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となるのであるが、次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。(昭55年直法2-8「二十六」、平7年課法2-7「五」により改正) (1) 建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあっては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。 (2) 機械装置の移設(7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額 (3) 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額。ただし、次に掲げる場合のその地盛りに要した費用の額を除く。 イ 土地の取得後直ちに地盛りを行った場合 ロ 土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りを行った場合 ハ 地盤沈下により評価損を計上した土地について地盛りを行った場合 (4) 建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額。ただし、その床上工事等が従来の床面の構造、材質等を改良するものである等明らかに改良工事であると認められる場合のその改良部分に対応する金額を除く。 (5) 現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額 |
以上の通達の文言のうち、特に重要と考えられるのが、いずれもその本文において、資本的支出に関しましては、「固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」と述べられている点であり、修繕費に関しましては「固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる」と述べられている点です。
これらは明らかにその表現が異なるものですから、御社におかれても、工場をはじめとして製造に係る機械装置等の修理等を行う際には、常に、上記2つのいずれに該当するか、ということを念頭に置かれて処理を行うとともに、税務調査の際に説明ができるよう、判定に至った理由の記録をしておくことをお勧めします。
鳥飼総合法律事務所 税務部長 高田貴史
※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。
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