連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第53回 海外子会社に移転価格税制が適用された!そのとき親会社はどうする?
海外子会社に移転価格税制が適用された!そのとき親会社はどうする?
Q 当社は海外進出を積極的に進めてきており、進出国でも順調に業績を伸ばしてきています。
ところがこの度、進出先のX国の税務当局から、子会社が当社に対して支払っている経営指導料及び子会社が当社から輸入している原材料と部品の価格が高過ぎるという理由で、X国の移転価格税制が適用されて更正処分を受けてしまいました。したがいまして、現在は日本とX国で二重課税が生じている状態です。
日本とX国は租税条約を締結していますが、どのような方法でこの二重課税の状態を解消していけばいいでしょうか。
A 日本法人の海外子会社が、進出先国の税務当局から移転価格税制の適用を受けた場合には、対象となった課税物件について我が国で税金を支払っている場合、進出先の国でも税金を支払うことになると二重課税が生じることとなります。
租税条約を締結している国同士の間では、この二重課税を排除するために、両国の税務当局が相互協議を行って調整することとなっています。
この場合の手続きとして貴社は、租税条約の規定に適合しない課税を受けたとして、次に掲げる事項を記載した申立書を国税庁長官に提出して解決を図っていくことになります(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令第12条)。
①貴社の名称及び本店所在地 ②租税条約の規定に適合しない課税を受けた事実及びその理由 ③租税条約の規定に適合しない課税を受けた事業年度 ④その他参考となるべき事項 |
この申立書を提出して、両国の税務当局の間で相互協議が行われた結果、貴社の課税所得金額を減少させるという合意がなされる可能性があります。その場合には、合意のあった日の翌日から起算して2か月以内に、貴社の所轄税務署長に対して更正の請求を行って法人税の還付を受けることとなります。
ただしこの手続きは相手国と租税条約を締結している場合に限り行えるものであることに注意が必要です。
企業の国際化が進み、中小企業も積極的に海外進出を行う時代になっていますが、どの国においても税のコストが経営に与える影響は大きいですから、海外に子会社を設立する際には当該進出国の税制や租税条約の締結の有無なども調査しておくことをお勧めします。
鳥飼総合法律事務所 税務部長 高田貴史
※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。
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