連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第40回 社員の横領が発覚!

第40回  社員の横領が発覚!

 

: X期の決算作業をしていたら、X期において我が社の社員が横領していたことが発覚しました。我が社も当然この社員に損害賠償するつもりです。この場合のX期の法人税に関する税務処理はどのようになるのでしょうか?

 

: 横領による損失をそれが発生したX期の損金の額に算入すると同時に、これに対応するその社員に対する損害賠償請求権を益金の額に算入する処理を行います。

   

[解説]

 会社が不法行為又は債務不履行などによって損害を受けた場合における法人税の税務処理についての原則的考え方は、下記のとおりです。

 その行為によって損害を受けた時点で自動的に民事上の損害賠償請求権を取得することになるため(民法709条)、その損害に係る損失の計上と同時に、これに対応して損害賠償請求権を収益計上すべきという考え方(同時両建説)

租税法は、私法上の法律関係を前提として適用されることからしますと、民事上の法的基準を重視する上記の考え方は妥当なものといえます。

しかし、損害賠償責任を負う者がその法人の役員又は使用人以外の「他の者」である場合には、そもそも相手方に損害賠償責任があるかどうかについて当事者間に争いがあることが少なくなく、仮に相手方に損害賠償責任があることが明確であるとしても、損害賠償金の額が当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないなど、直ちに損害賠償請求権の権利行使を期待できない事情がある場合もあります。そこで、このような事情を踏まえて、法人が不法行為等によって損害を受けた場合の相手方が「他の者」である場合については、法人税法上、下記の考え方が採用されています(法人税基本通達2-1-43)。

 損失は損失としてその発生時点で計上し、損害賠償金はこれと切り離してその支払を受けるべきことが確定した時点で収益計上すれば足りるという考え方(異時両建説)

 ところで、今回の質問のケースは、会社に損害を与えた相手方がその会社の社員です(「他の者」ではありません)ので、原則的考え方(同時両建説)に従った税務処理を行うこととなります。

鳥飼総合法律事務所 税理士  佐野 幸雄

※ 本記事の内容は、2014年4月現在の法令等に基づいています。
※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。

関連するコラム