連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第30回 社長の退職給与額は功績倍率3.0で計算すれば安泰だと思っているのですが・・・
社長の退職給与額は功績倍率3.0で計算すれば安泰だと思っているのですが・・・
Q 長年当社の発展に寄与してきた社長がこのたび退任することになりました。退任にあたっては当然、相応の退職金を支払う予定です。この際、当社としては法人税を多少多めに負担することになったとしても社長のこれまでのご苦労に報いたいところですが、社長としては当社のさらなる発展のためにそのようなことは望んでいないようです。そこで、社長の花道を汚すことのないよう、万が一にも不相当に高額な退職金であると税務署から否認され、追徴課税を受けることがないような額にて支給したいと考えております。そこで、一般的に相当な額の算定式と用いられている功績倍率法を用いて、当社とおつきあいのある他社さんでも社長クラスで一般的に採用している功績倍率3.0、功労加算30%で算定する予定なのですが、他社さんと横並びなのですからこの数字であれば大丈夫だと思うのですが、いかがでしょうか。最近、社長クラスにもかかわらず、功績倍率1程度が妥当と判断した裁判例があると伺ったものですから若干不安になっております。
A 功績倍率法の功績倍率は、同業類似の会社を適切に選び、その平均値等をしん酌して決めていくこととなります。貴社と取引のある会社の社長が採用している功績倍率が3.0であるから貴社も3.0でも大丈夫ということにはなりません。また、功労加算する場合には同業類似の会社における社長以上の功労があったという特殊事情が必要となります。たとえば会社のために長期間連帯保証人となっていた程度では認めらません。
[解説]
1 法人税法の考慮要素を加味した計算式としての功績倍率法
退職金の税務上の適正額については、法人税法が考慮すべき要素として掲げる退職者の従事期間や、退職の事情、同業同種の法人の支給状況等(法人税法34条1項本文括弧内・2項、法人税法施行令70条2号)を織り込むことのできる、功績倍率法、すなわち、退職者の最終月額報酬×勤続年数×功績倍率の数式で表現されるものが一般的に採用されています。
2 功績倍率3.0は安全神話に過ぎない?
問題は功績倍率としてどの数字までが許容されるかなのですが、確かに昭和55年頃以降におけるこれまでの裁判例では3.0以内であればこれを不相当とするものはほとんどありませんでした。また、実務上の役員退職規程でも社長クラスでは功績倍率3.0、さらに功労加算として最大30%の積算を認めるものが多くみられます。しかしながら、近年、該当法人の所在地を管轄する国税局管内の同業類似法人3社の平均をとれば1.18が妥当であって、また融資の際に保証人となった程度では社長として特殊な貢献をなしたともいえないのであるから功労加算すべき場合にあたらないとする裁判例(東京高等裁判所平成25年7月18日判決・東京地方裁判所平成25年3月22日判決公刊物未登載)もでています。3.0であれば形式的にどのような場合でも大丈夫というわけでもないのです。この裁判例のように同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の平均値を用いる方法は平均功績倍率法と呼ばれていますが、裁判例ではこのような平均功績倍率法が法人税法の趣旨に最も合致する方法
であって、原則的に採用されるべき方法であるとされています。例外的に、同業類似法人の最高額を採用する最高功績倍率法によることが全く許容されないわけではありませんが、それは同業類似法人を探すことが難しい場合や、探し出せる法人数が少なすぎて、かつ採用した功績倍率が最高額となる法人が当該法人と極めて類似しているといった、稀なケースに限られます。
3 対応策
そのため、不相当に高額な退職金であるとして税務署から否認されないためには、例えば、貴社がアクセスしうる役員退職金に係るベータベースのデータ等を参考に、同業類似法人において採用された功績倍率の平均値をさぐりあて、これとあまりにかけ離れた数字となっていないか確認する作業が必要となってくるでしょう。
もっとも、同業類似法人としてどのような法人を抽出するかで当該平均値は動く可能性があります。そのため、同業類似法人の抽出においてはできるだけ保守的にやる必要があるでしょうし、またサンプル数がどうしても少なすぎるといった場合には果たして最高功績倍率法を例外的に採用してよいものか、社長の具体的な功績の評価として功労加算の対象となるような特殊なものであったと扱ってよいものかなど、悩む場面が多くでてくることが予想されます。このように実際に功績倍率の数値や功労加算率を決めるにあたっては形式的に簡単に算出できるわけではなく、なかなか難しいところがございます。結果的に計算された金額等からみて多少とも否認されるのではないかといった不安が残られる場合には専門家にご相談することをお勧めいたします。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩
※ 本記事の内容は、2014年1月現在の法令等に基づいています。
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