連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第27回 海外進出に潜む税の危険-親心が仇になる-
海外進出に潜む税の危険-親心が仇になる-
Q.当社では、少子高齢化の進む日本以外にも販路を求めたいと考え、成長著しいASEAN加盟国をターゲットに子会社を設立して進出することを考えています。設立にあたっては、経営が軌道に乗る数年間は当社の社員を幹部や技術指導者として派遣する予定です。
現地に子会社を設立する形なので特に日本の税法の適用は気にしなくてよいという理解でよろしいでしょうか。
A.近年、経済取引がグローバル化してきたことに伴い、大幅な成長を見込めるASEAN加盟国、特にインドネシア・タイ・ベトナムに進出する企業が増加してきました。
海外子会社を設立して、そこに日本から経営幹部や技術者を派遣して活動を行うということが活発化しているようです。
しかし、そこには海外の税制のみならず日本の税法も適用されてくる可能性がありますので、十分に注意しましょう。
【解説】
海外進出を行う際、現地の人々を雇用して事業活動を行うということももちろんありますが、軌道に乗るまでは、日本から経営幹部や技術者を派遣するということのほうが一般的にはよく行われているようです。
その際、日本の課税当局が注視してくるのが、「給与」と「技術指導料」です。
まず「給与」から解説しましょう。
親会社は子会社が順調に経営できるようになるまで、派遣した人たちの給与を親会社の負担で支払うことがよくあります。しかし、親会社が負担した給与のうち、その負担が合理的であると認められる部分を除いては、子会社に対して寄付金の支出があったものとして取り扱われる可能性が高いので注意が必要です。
なぜなら、その人たちは子会社のために働いているからです。「子会社のために働いた人たちの給与は子会社が支払うべきであって親会社が支払うものではない。」、というのが日本の課税当局の考えです。ですから、親会社が負担することが合理的ではないとされた金額は親会社の損金の額に算入されないこととなります。
次に「技術指導料」について解説します。
もし親会社の技術者が海外子会社の技術者として働くとしますと、その子会社は親会社の技術を持った方のおかげで良い製品を製造でき、それが現地で引く手あまたの製品となることがあります。そうすると、その子会社はその技術指導のおかげで利益を上げることが出来るということになります。その際に問題となるのが、「役務提供の対価としての技術指導料」を受け取っているか否かということです。日本の課税当局からしますと、「もしそのような技術を持った人を他から雇ったりすれば、子会社は当然対価を支払うでしょう。ですから日本の親会社にも支払ってください。もらっていないのであれば、その分は親会社が受け取ったものとして課税します。」という理屈になります。
ですから、子会社にとって経済的メリットが発生するような技術指導を受けるような場合には、親会社は適正な対価を受け取る必要が出てきますし、もし受け取っていないということになりますと受け取ったものとして課税が行われることとなります。
「親が子の面倒を見るのは当たり前」という優しい親心も、税金の前では無力ということになりかねませんので注意が必要です。
鳥飼総合法律事務所 税務部長 高田貴史
※ 本記事の内容は、2014年1月現在の法令等に基づいています。
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