連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第17回 会社法の活用1~相続人等に対する売渡請求(会社法174条)~
会社法の活用1~相続人等に対する売渡請求(会社法174条)~
1 後継者以外の相続人が相続した株式を買い取ることができます
相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し、会社が売り渡しを請求できることが、会社法上定められています。相続によって取得した株を、会社が買い取ることができるという制度ですから、この制度をうまく使うと、後継者以外の相続人の保有する株式を減らし、後継者の株式保有率を高めることができます。
2 要件
①株式を、「相続その他の一般承継により取得した」こと
②定款に売渡請求についての定めがあること
③対象となる株式が譲渡制限株式であること
④財源規制をクリアしていること
⑤請求の際には株主総会の特別決議が必要
3 問題点
この方法は、基本的には定款の記載を整えておけばよいので、事業承継対策としては一見お手軽で合理的な方法のように思えるかもしれません。
しかし、次のような欠点もあります。
①会社が株式を買い戻すという形のため、買取資金が必要。
あくまで「買い取る」というものですので、当然代金相当の資金が必要となります。業績の良い会社であればあるほど、株価が高くなりますので、多額の買取資金が必要となってしまいます。また、財源規制もありますので、会社の財務状況に左右されてきます。
②後継者自身もこの請求を受ける可能性がある。
売渡請求を受けることになる株主は、請求の有無を決定する株主総会で議決権を行使できません。そのため、後継者以外の株主による、後継者への売渡請求も可能となってしまいます。
③期限の定めがある
相続があったことを知った日から一年以内に売渡請求をしなければなりません。
これらの欠点があるのは、この制度の趣旨が、株式に譲渡制限をつけていても、相続で取得した場合には、会社の承認がなくても相続人は株式を取得できてしまうため、他の株主にとって好ましくない相続人が株主となることを防ぐことにあるためです。
事業承継対策は、法務・税務双方の観点から、経営を円滑に承継させることを目的として、プランニングする必要があります。一つの法律や、一つの税制の利用では到底、カバーできるものではありません。各会社の実情に合わせ、様々な制度を利用して、経営を円滑に承継させなければならないのです。いわば、会社ごとにオーダーメイドされた対策が必要となるのです。
今後数回にわたり、会社法制を利用した事業承継対策をご紹介して参りますが、これらは「道具」なのです。これらの道具を使いこなし、いかに円滑に経営を承継するかということこそが、事業承継対策の真の目的です。本稿以降の記事が、道具の使い方を知って頂くと同時に、経営の承継についてご一考して頂く機会となれば幸いです。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 小西功朗
※ 本記事の内容は、2013年5月現在の法令等に基づいています。
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