連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第16回 取得条項付種類株式と株主ごとの異なる取り扱い

取得条項付種類株式と株主ごとの異なる取り扱い

 

1 取得条項付種類株式とは

 取得条項付種類株式とは,一定の事由が生じたことを条件として,株式会社が株主から株式を取得することができるという種類株式(会社法第108条第1項第6号)をいい,当該一定の事由が生じれば,会社はその株式を強制的に取得することができます。

 経営者が所有する株式の一部を取得条項付種類株式とし,遺言や贈与によって,その所有する普通株式を後継者に,取得条項付種類株式を非後継者に承継させ,一定の事由が生じたときに会社が非後継者から取得条項に基づき株式を取得することにより,相対的に後継者の議決権比率を増大させることができます。

 

2 取得条項付種類株式の導入

 取得条項付種類株式を発行するためには,定款に,取得条項付種類株式の発行可能株式総数と, ①一定の事由が生じた日に会社がその株式を取得する旨及びその事由,②会社が別に定める日が到来することをもって取得の事由とするときはその旨,③取得事由が生じた日に取得条項付種類株式の一部を取得することとするときはその旨及び取得する株式の一部の決定方法,④会社が取得条項付種類株式を取得するのと引換えに交付する対価の内容,数額等またはその算定方法を定めなければなりません(会社法第108条第2項第6号,第107条第2項第3号)。対価として交付する財産の内容には特に限定はありません。

既発行の株式につきこのような定款の定めを設け,またはその定款の変更(当該定款の定めの廃止を除く)をするには,通常の定款変更手続きのほか,その株式を有する株主全員の同意が必要です(会社法第110条・第111条第1項)。 

 会社による取得条項付種類株式の取得は自己株式の取得であり(会社法第155条第1号),会社は,原則として,取得事由が生じた日に取得条項付種類株式を取得しますが(会社法第170条第1項),財源規制があり,取得と引き換えに交付するその会社の他の株式,社債,新株予約権,新株予約権付社債の帳簿価額が取得の日の分配可能額を超えているときは,取得することができません(会社法第170条第5項)。

 

3 株主ごとの異なる取り扱い

 株主は,その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱われるのが原則ですが(株主平等の原則。会社法第109条第1項),全ての株式について株式の譲渡制限を設けている会社では,①剰余金の配当を受ける権利,②残余財産の分配を受ける権利,③株主総会における議決権につき,株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法第109条第2項)。閉鎖型の会社では,株主の持株数の増減にかかわらない属人的な権利の配分を行うニーズがありうることから,旧有限会社法の制度を受け継いで規定されたものです。

株主ごとの異なる取り扱いを事業承継に利用する例としては,議決権に関して異なる取り扱いを定めることが考えられます。例えば,「取締役である株主のみが議決権を有する」という定めを設け,後継者を取締役にしておくことで経営権を集中するなどです。また,特定の株主の所有株式につき1株複数議決権を認める規定を設けて,後継者の有する株式に複数議決権を付与する方法もあります。

 

4 株主ごとの異なる取り扱いの導入

 株主ごとの異なる取り扱いに関する定款規定を設ける定款変更は,通常の定款変更の要件である特別決議より要件の重い特殊決議(総株主の半数以上であって総株主の議決権の4分の3以上にあたる多数)が要求されます(会社法第309条第4項)。

 また,有限会社においても株主ごとの異なる取り扱いについては利用実例がほとんどなく,異なる取り扱いが可能な範囲についての解釈が明確でないということもあり,どのような定めを設けるかについては,十分な検討が必要であると思われます。

 株主ごとの異なる取り扱いに関する定款規定を設けた場合は,その株主が有する株式を種類株式とみなして,会社法の第2編(株式会社),第5編(組織変更・組織再編)の規定が適用されます(会社法第109条第3項)が,会社法第7編(雑則)の適用はないため,登記の必要はありません。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 村瀬孝子

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