連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第15回 事業承継と拒否権付き種類株式

事業承継と拒否権付き種類株式

 

1.拒否権付き種類株式(黄金株)とは?

 

会社法は、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会)で決議すべき事項のうち、普通株主による株主総会の決議(あるいは取締役会決議)のほかに、さらに種類株式を保有する株主による種類株主決議を必要とする種類株式を発行することができる、と定めています(会社法108条1項8号)。

この、株主総会や取締役会などで決議すべき事項について、当該決議のほかに、当該種類株主による種類株主総会の決議が必要である、と定めた種類株式を、「拒否権付き種類株式」といいます。「黄金株」ともいわれます。

拒否権付き種類株式を保有する種類株主が、種類株主総会で当該決議事項を否決すれば、その決議事項は可決できないということになります。

 

2.事業承継との関係

 

事業承継においては、この拒否権付き種類株式を活用できる場面があります。

例えば、経営者が、会社の経営は後継者に譲るものの、後継者がまだ若く、会社の経営を安心して任せられないので、会社の重要事項については、先代経営者の意向を反映させるようにしたい拒否権を持たせたい、というような場合があります。

このようなときには、先代経営者が拒否権付き株式を取得し、普通株式は後継者に譲り渡して、会社の重要事項については拒否権付き種類株主総会の決議を要するようにすることで、先代経営者の意向が反映されるようにすることができます。

 

3.拒否権付き種類株式を導入する場合の注意点

 

ただし、拒否権付き株式が、何らかの理由で、先代経営者や後継者の経営に反対する勢力に渡ってしまうと、会社の重要事項の決定権は、反対勢力側が持つことになり、非常に危険です。そのため、拒否権付き種類株式を有する株主が死亡した場合の対処など、拒否権付き株式導入の段階であらかじめ検討しておくべきこともあります。

また、拒否権付き種類株式を発行すると、一定の重要な事項については、通常の株主総会決議や取締役会決議のほかに、種類株主総会決議が必要となりますので、迅速で機動的な会社経営を阻害する場合もないとは言えません。

さらに、普通株主と種類株主による可決と否決の循環が生じ、デッドロック状態になるおそれもあります。

しがたって、拒否権付き株式を導入する場合には、専門家に相談をして、メリットとデメリットをよく検討することが必要です。

 

4.拒否権付き種類株式の導入の手続き

 

株式会社が、拒否権付き種類株式を発行する場合は、定款に、次の事項を定めなければなりません。

 

①株主総会・取締役会の決議事項のうち、種類株主総会の決議があることを必要とするもの

 例)役員選任、剰余金の処分、定款変更、代表取締役の選定、など

②当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件

③発行可能種類株式総数

 

先代経営者から後継者への事業承継に関連して、拒否権付き種類株式の導入を検討する場合には、定款変更のための株主総会の開催などの手続きが必要なことを踏まえ、手続きとスケジュールの確認も大切なことです。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 佐藤香織

※ 本記事の内容は、2013年4月現在の法令等に基づいています。

 

 

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