連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第13回 事業承継と株式の譲渡制限
事業承継と株式の譲渡制限
1 株式の譲渡制限の趣旨
株式を上場していない非上場の会社では、会社の経営はオーナーを中心に極限られた者で行われており、第三者が株主になり、経営に口を出すということは、経営を混乱させる危険性があり、望ましくありません。そこで、会社法では、株式に譲渡制限を付して、取締役会などの承認がなければ、株式を取得できないようにされています(会社法107条2項1号・108条1項4号)。
2 旧商法の株式の譲渡制限の制度との比較
このような会社法の株式の譲渡制限ですが、旧商法の株式の譲渡制限の制度と比較すると若干の改正がなされています。すなわち、旧商法の株式の譲渡制限は、1つの制度として捉えられていました。したがって、会社は、株式の譲渡制限の制度を導入するか否かを選択しなければならず、株式の譲渡制限の制度を導入すれば、全ての株式について譲渡をするには取締役会の承認が必要とされていました。逆に株式の譲渡制限の制度を導入しない場合には、全ての株式が自由に譲渡できるとされていました。
これに対し、会社法では、株式の譲渡制限は、株式が持つ一つの内容として捉えられています(会社法107条・108条)。すなわち、配当金請求権や議決権などと同様に株式が持つ権利内容の一つとして扱われているのです。したがって、その内容を株式の種類ごとに変更し、A種種類株式は自由に譲渡できる株式とするが、B種種類株式は譲渡制限の株式とするということも出来るようになっています。
さらに、会社法では、定款自治の範囲が拡大されており、定款に定めることによって、株式の譲渡の承認機関を取締役会ではなく、株主総会や代表取締役に設定したり、株式の譲渡制限の範囲を緩和し株主間の譲渡に関しては承認を必要としない旨を定めることも認められています。
■考え方
会社法:株式の内容の一つ。特定の種類の株式のみ譲渡制限を付すことも可能。
旧商法:株式の譲渡制限という制度。制度を導入する場合には、全ての株式が譲渡制限となる。
■承認機関
会社法:原則取締役会、但し、定款によって、株主総会や代表取締役とすることも可能。
旧商法:取締役会
■承認対象
会社法:株主間の譲渡など一定の範囲について適用対象から除外することが可能。旧商法:全ての特定承継(売買、贈与、遺贈等)が対象。
また、会社法では、全ての株式に譲渡制限を付している会社を非公開会社として定義付け、譲渡制限が付されていない株式を発行している公開会社とは異なる取り扱いをしています。例えば、非公開会社の場合には、取締役会や監査役を設置しない機関設計も認められています(会社法327条)。全ての株式に譲渡制限を付している会社では、通常、経営者が株式の大半を保有していることが多く(所有と経営の一致)、簡易な機関設計によることも認められています。
3 株式の譲渡制限の限界
以上のような株式の譲渡制限ですが、安定的な事業承継を行う場合には、株式の譲渡制限だけを設けておくのでは不十分です。具体的には、以下のような限界がありますので、これらのリスクを他の制度等によって解消しておかなければなりません。
(1) 株式が包括承継される場合には対象にならない。
株式の譲渡制限は、株式の売買、贈与、遺贈など、取引行為によって株式が承継されることを制限するものであり、相続などの一般承継の場合は対象としていません。したがって、株主が死亡し、相続によって、好ましくない者が株主になることは防止することが出来ません。相続などの包括承継によって株式が、好ましくない者に承継されることを防止するためには、相続人等に対する売渡請求の制度(会社法174条以下)を別に設ける必要があります。
(2) 譲渡承認請求を拒否した場合には、株式買取の手続に進む。
全ての株式に譲渡制限を付している場合、確かに、第三者が会社の株式を取得することは防止することが出来ます。しかし、会社が株主からの譲渡承認請求を拒否する場合には、会社自らが当該株式を買取るか、第三者が買い取るかを決定して、通知しなければなりません。実際には、非上場会社の株式を買取ってくれる者は少ないため、会社が自己株式(金庫株)として取得することになることが多いと思います。そして、そのように会社が株式を買取る場合でも、買取価格について、会社と株主が合意出来ない場合には、裁判所の価格決定手続に進むこととなります。そして、裁判所では、裁判所が選任する鑑定人が株価を評価して買取価格が決定されますが、その価格は一般的に高額となることが多く、自己株式の買取りによって、会社の財務状況を大きく悪化させることになります。
したがって、事業承継を行う場合には、そのようなリスクを排除するため、株式が分散化している場合にはそれを買い集めて株式を集中させることや、会社の決定で株式を取得できる取得条項付種類株式を利用することが重要となります。
4 まとめ
以上のとおり、会社法においては、株式の譲渡制限は、株式の内容の一つと捉えられており、旧商法の制度よりも柔軟な取扱いが可能となっています。しかし、それだけでは事業承継の対策としては不十分ですので、その他の制度等をうまく利用して円滑な事業承継を実現することが必要とされています。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 福﨑 剛志
※ 本記事の内容は、2013年3月現在の法令等に基づいています。
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