連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第11回 標準必須特許の落とし穴って?

11回 標準必須特許の落とし穴って?

 

1.特許権の落とし穴

 特許権は、製品の販売等の方法により権利を侵害する者(または侵害するおそれがある者)に対し、侵害の差止めを請求できる、非常に強力な権利です[1]

 しかしながら、特許権の行使も無制限に認められているわけではありません。

例えば、一定の標準規格を実施する際に必須となる特許(ここでは、「標準必須特許」といいます。)を有する企業が、合理的理由なくライセンスを拒絶したり、みだりにその特許に基づいて差止め請求を行うことは、場合によっては独占禁止法違反等のリスクを生じることがあります。

  

2.標準必須特許とFRAND条件でのライセンスの義務付け

 ある企業の特許が技術標準として採択される場合、その企業は、標準化団体などにより、その特許を使おうとする他企業に対し、FRAND条件でライセンスを行うことを義務付けられることがあります。

 FRANDとは、Fair, Reasonable And Non-Discriminatoryの略で、「公平、合理的かつ非差別的」な条件を表すのに使われる言葉です。

 

3.標準必須特許のFRAND条件でのライセンスの義務と特許訴訟への影響

 FRAND条件でのライセンスの義務は、独占禁止法の分野で問題となることがあります。

 たとえば、EUでは次のような例があります。

 昨年1221日、サムスンがアップルに対して、多数のEU加盟国において、自身の携帯電話標準必須特許に基づいて侵害差止めを求めていたことにつき、欧州委員会は、予備的見解をサムスンに通知した旨、プレスリリースをしました。

 その予備的見解の内容は、特許権者が自身の特許を産業標準に提供し、これを公正な対価でライセンスすることを誓約していた場合に、標準必須特許の侵害者が、将来のライセンシーとして、いわゆるFRAND条項によるライセンスを受けるべく交渉する意思があるときは、その標準必須特許の特許権者が特許権に基づいて侵害差し止め請求を行うことが、EU反トラスト規則が禁じている支配的な地位の濫用に該当しえるというものです[2]

 

4.日本における標準必須特許に関する問題

 日本においては、公正取引委員会が、2007年の「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」において、「標準化活動に参加し、自らが特許権を有する技術が規格に取り込まれるように積極的に働きかけていた特許権者が、規格が策定され、広く普及した後に、規格を採用する者に対して当該特許をライセンスすることを合理的理由なく拒絶する(拒絶と同視できる程度に高額のライセンス料を要求する場合も含む。)ことは、…当該製品市場における競争が実質的に制限される場合には私的独占として、競争が実質的に制限されない場合であっても公正な競争を阻害するおそれがある場合には不公正な取引方法(その他の取引拒絶等)として独占禁止法上問題となる」との見解を示しています。

 以上のように、標準必須特許を有する企業が、合理的理由なくライセンスを拒絶したり、過度に高額なライセンス料を要求したり、みだりにその特許に基づいて差止め請求を行ったりすることは、場合によっては独占禁止法違反等のリスクを生じることがありえますので、注意しましょう。

 

参考文献

 

「技術標準と特許 欧州公的標準化機関における知的財産権取り扱い指針(IPRポリシー)の検討」

「標準化技術をめぐる特許問題対策の動向」

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 香西駿一郎

※ 本記事の内容は、2013年2月現在の法令等に基づいています。

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