連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第10回 商標法改正の動向 テレビCMに流れているメロディも商標権の対象に?

商標法改正の動向  テレビCMに流れているメロディも商標権の対象に?

1.商標の認められる範囲が拡大する可能性

 テレビCMが始まる際又は終わる際に、その企業特有の短いメロディが流れることがあります。私たちは何度もCMを見ているうちに、そのメロディを聞いただけで特定の企業を思い浮かべるようになります。例えば、久光、オートバックス、コジマなどの企業を思い浮かべると、逆にメロディが頭の中で流れる方も多いと思います。
 
このCMに流れているメロディについて、商標登録をすることは認められるのでしょうか。

  現在日本において商標登録が認められているのは、「文字、図形、記号、立体的形状やその結合、またはこれらと色彩との結合によって構成される標章」に限られており(商標法2条1項)、音楽は除外されています。そこで、企業特有の短いメロディを競合他社が使ってCMを行ったとしても、商標法に基づく差止めや、損害賠償請求をすることができません(ただし、不正競争防止法などの要件を満たした場合など、条件によっては別の形での救済を受けることができます)。

 ところが、諸外国では、商標の認められる範囲が広く、音や動きに関しても商標に関する権利保護が図られており、経済産業省・特許庁は、音、動き(映画の最初に流れるロゴマークなどの動画など)、ホログラム、色彩、位置(靴の踵の位置に赤い線を入れるなど)に関する商標法改正案を本年中に提出することを検討しています。

 

2.法改正によるメリット

 法改正により、メロディや商品の特徴的な色彩などを商標登録し、自社ブランドを表すものとして安心して育てていくことができるようになります。確かに、模倣品などに対しては、不正競争防止法により登録などの手続きなしで責任を問うことができますが、世間一般に周知されているものでなければ保護されないという弱みがあります。今回の改正では周知されていないものに対する保護の範囲を広げるという点で、メリットが認められます。 

 また、すでにメロディや特徴的な色彩などがブランドを表す力を得た段階であっても、メリットが認められます。不正競争防止法による救済を得るには、他人の商品について、周知性を有する自分の商品と混同のおそれがあることを主張・立証する必要がありますが、商標権侵害を理由とする救済を得るには、単に類似する商標が使われていることを言えば足りるようになります。その意味で、今回の改正は、模倣品対策としてかなり使い勝手のよい武器となりうる可能性を有していると言えます。

 更に、マドリッド協定議定書に基づき、商標を日本の特許庁を通じて国際登録をすることにより、外国の官庁に直接出願したのと同様の効果を得ることができ、簡易迅速かつ低廉なコストで国際的に商標を保護することが可能となります。

 

3.法改正によるデメリット
 他方、デメリットとしては、先に商標登録がされていることにより同一または類似の特徴を有する商品を作ることが難しくなる点が挙げられます。例えば、米国では仏クリスチャン・ルブタンが、女性用靴底に赤色を用いることについて商標登録をしていますが、日本でも複数の会社がこれに倣い青色や緑色についても商標登録をするようになると、デザイナーやメーカーにとっては商品開発の幅が狭まるリスクがあると言えるでしょう。法改正の後に日本でどのような運用がなされるかも注目されるところです。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡邊康寛

※ 本記事の内容は、2013年1月現在の法令等に基づいています。

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