連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第7回 経営承継円滑化法の制定の趣旨
経営承継円滑化法の制定の趣旨
1 はじめに
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」、いわるゆ「経営承継円滑化法」が施行されて、4年が経ちました。今回は、この法律の制定の趣旨と、適用対象者はだれか、について説明します。
2 経営承継円滑化法の制定の趣旨
特に中小企業の事業承継と経営者の相続にあたっては、従来、次のような問題があるといわれていました。
(1)問題その1)相続において遺留分の制限があること
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
経営者Aには、妻Bと、息子C、娘Dの2人の子がいます。Aの財産の総額の4分の3を自社株が占め、残りの4分の1は自宅不動産や預貯金でした。
本来、法律で定められた相続人の相続分によれば、妻Bが2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつを相続することとなります。ただし、民法には、「遺留分」という制度があります。これは、財産の全部を一人の相続人に渡すという遺言書が作られたとしても、他の法定相続人(配偶者、子、直系尊属に限られます)に、法律で定められた相続分の2分の1を相続させる、という制度です。
経営者Aは、遺言書を作り、息子Cに、自社株全部を引き継がせ、妻Bに残りの財産を渡すことにしました。ところが、妻Bと娘Dの遺留分は、妻Bが4分の1、娘Dが8分の1となります。そうすると、この遺言書は、妻Bの遺留分は侵害していませんが、娘Dの遺留分は侵害します。この場合、娘Dから遺留分減殺の請求があれば、息子Cは、遺留分8分の1に相当する自社株の一部を渡すか、代わりに現金で支払うことになります。つまり、自社株の全部を息子Cが一人で持つことができなくなる可能性があるわけです。
そこで、経営承継円滑化法は、民法の特例を設けました(詳しい内容は、次回以降に説明します)。
(2) 問題その2)事業承継の際の資金調達が難しいこと
経営者が自社株や事業用資産を持っており、それを、後継者が買い取ることとするケースでは、買取資金が必要となります。
ところが、これまで経営を立派に行ってきた経営者に比べ、後継者にはまだそこまでの信用がない場合が多く、金融機関などから融資を受けられないという問題があります。
そこで、経営承継円滑化法は、経営者の交代の際の資金支援の特例を盛り込みました。
3 経営承継円滑化法が適用される者
この法律の適用の対象となるのは、「中小企業者」です。
「中小企業者」とは、「製造業その他」、「卸売業」、「小売業」、「サービス業」という業種にわけて定められた「資本金」または、「従業員数」のいずれかを満たす会社または個人事業主です。たとえば、小売業の場合、資本金が5000万円以下、または従業員数が50人以下のいずれかの要件を満たす会社または個人事業主であることが要件です。
まずは、自社もしくは自分が、この法律の適用対象かどうかを確認しましょう。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 佐藤香織
※ 本記事の内容は、2012年11月現在の法令等に基づいています。
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