電話会議方式による理事会への出席 ~ 福岡地判平成23年8月9日判決 ~
公益法人・一般法人を問わず、各理事は理事会に出席する責務を負っていますが、必ずしも物理的に理事会が開催されている場所に出席する必要はなく、テレビ会議方式や電話会議方式による出席も可能と考えられています(一般法人法施行規則15条3項1号括弧書参照)。
このうち、会社法における電話会議について、最近の裁判例で問題になった事案をご紹介いたします。
この事案では、会議室の固定電話から遠隔地にいる取締役の携帯電話に電話をかけ、取締役会の間、ずっと接続しておくという方法が用いられていました。ただ、この固定電話にはスピーカーフォン(スピーカーと集音マイクを内蔵した電話機を指し、この機能を用いれば複数人が同時に電話を聞いて発言を行うことができます。)の機能はなく、遠隔地にいる取締役には会議室における話の内容はほとんど聞こえず、同人の発言も受話器をとらなければ聞き取れない状況にありました。
福岡地裁は、このような事実の下では、遠隔地にいる取締役を含む各取締役の発言が即時に他のすべての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保されたシステムを用いることによって、遠隔地にいる取締役を含む各取締役が一堂に会するのと同等に自由な協議のできる状態になっているとはいえないということで、当該遠隔地にいる取締役は取締役会に適法に出席したと判断することはできない、としました。これは、会社法に関する裁判例ですが、一般法人法が適用される公益法人・一般法人においても参考になります。
法人において遠隔地間で会議を開催する場合、特殊端末を使用したテレビ会議やインターネット回線を使用したWeb会議のような映像の伝達までは不要で、電話回線を使用した電話会議であっても参加した者の全員が出席扱いされているとはいえ(ただし映像のない場合には電話会議によることへの出席者全員の同意が必要と解する見解もございますので、議事録にはその旨明記しておいた方がよいでしょう。)、最低限、会議室間で会話が全員に即時に双方向で伝わる環境が求められております。したがいまして、会議室にただ不在者の携帯電話をつないでおいておけばよいというものではございませんので、電話会議により理事の出席を図る場合には、スピーカーフォンの利用など即時性と双方向性が確保されているかどうかにご注意ください。
(ご参考条文・登記関係の回答)
〇一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則
(理事会の議事録)
第15条 法第95条第3項の規定による理事会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。
・・・
3 理事会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
一 理事会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない理事、監事又は会計監査人が理事会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)
・・・
〇電話会議の方法による取締役会の議事録を添付した登記の申請について
平成14年12月18日民商3044号民事局商事課長回答
(通知) 標記の件について、別紙1のとおり東京法務局民事行政部長から照会があり、別紙2のとおり回答しましたので、この旨貴管下登記官に周知方取り計らい願います。
別紙1
登記の申請書に電話会議の方法による別紙の取締役会議事録を添付した申請があった場合には、同議事録は、出席取締役が一堂に会するのと同等の相互に充分な議論を行うことができる会議の議事録として、適式な取締役会議事録と認められるので、本件登記の申請については、これを認めて差し支えないものと考えますが、いささか疑義がありますので、照会します。
別紙
取締役会議事録
平成14年12月2日午前9時30分から、当社本店会議室及び当社大阪支店会議室において、電話回線及び電話会議用装置からなる電話会議システムを用いて、取締役会を開催した。
開催場所 東京都○○区○○1-1-1当社本店会議室
大阪府大阪市○○区○○2-2-2当社大阪支店会議室
出席取締役及ぴ監査役
当社本店会議室 取締役A、B及び監査役D
当社大阪支店会議室 取締役C
上記のとおり、本店会議室及ぴ大阪支店会議室における全取締役及び監査役の出席が確認され、代表取締役Aが議長となって、本取締役会は電話会議システムを用いて開催する旨宣言した。
電話会議システムにより、出席者の音声が即時に他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態となっていることが確認されて、議案の審議に入った。
(中略)
本日の電話会議システムを用いた取締役会は、終始異状なく議題の審議を終了したので、議長は午前11時10分閉会を宣言した。
この議事の経過の要領及ぴ結果を明確にするため、本議事録を作成し、出席取締役及び監査役はこれに記名捺印する。
平成14年12月3日
議長代表取締役社長 A 印
取締役 B 印
取締役 C 印
監査役 D 印
別紙2
本月10日付け日記第643号をもって照会のありました標記の件については、 貴見のとおりと考えます。
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