東京地裁で「総則6項」を適用した処分を取り消す判決
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令和7年1月17日に東京地裁で、いわゆる「総則6項」を適用して非上場株式を評価してなされた相続税の更正処分を取り消す判決がありました。国側は、被相続人らが増資及び金融資産の取得や剰余金の配当をすることによって「株式保有特定会社」外しや「比準要素1の会社」外しをしたことを指摘して、評価通達の定めによる評価をすることが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるという主張をしたようですが、裁判所は、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとはいえないという判断をしました。 |
1 令和7年1月17日に東京地裁で、いわゆる「総則6項」を適用して非上場株式を評価してなされた相続税の更正処分を取り消す判決がありました。まだこの判決は公表されていないのですが、この判決の事案の裁決によると以下のような事実関係であったようです。
① A社は、本件被相続人ほか6名が設立した株式会社であり、平成25年3月31日時点において、原告X1と合わせて上場会社であるB社の発行済株式の過半数を保有していた。
② 本件被相続人は、平成25年4月18日から同年5月9日までに、所有していた上場株式を売却した。
③ A社は、平成25年8月9日に開催した臨時株主総会の決議に基づき、剰余金の処分として普通株式1株当たり40円を配当すると共に、本件被相続人を割当先として、普通株式90万5440株を1株あたり3,967円で発行した。なお、この株式の発行価格は時価純資産価額法により評価した価額であった。
④ A社は、上記の株式の発行により調達した資金の運用として、低解約返戻金型の逓増定期保険契約(2億7569万3700円)の締結、上場株式約3000万の取得、証券投資信託及び外国債約23億円の取得等をした。
⑤ 本件被相続人は、平成25年10月に死亡した。
⑥ 原告らは、本件被相続人から相続又は遺贈により取得したA社の株式を類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式により1株あたり1853円と評価して、本件被相続人の相続に係る相続税(本件相続税)の申告をした。
⑦ 原告らは、本件調査を受けて、平成29年6月19日に、A社の株式を評価通達189-3但書に定める方式(「S1+S2」方式)により1株あたり2,263円と評価して、本件相続税に係る修正申告をした。
⑧ 所轄税務署長は、平成30年9月7日付で、A社の株式を純資産価額方式により1株当たり3,443円と評価すべきであるとして、本件相続税に係る更正処分等をした。
もともとA社は、「株式保有特定会社」(評価通達189(2))であり、株式保有特定会社でないとしても「比準要素1の会社」(評価通達189(1))であったところ、③の増資と④の証券投資信託及び外国債約等の取得によって「株式保有特定会社」でなくなり、③の剰余金の配当によって「比準要素1の会社」でもなくなったため、評価通達によれば、純資産価額方式ではなく、純資産価額方式と類似業種比準方式との併用方式による評価をすることも可能になったのですが、課税庁としては、そのような「株式保有特定会社」外しや「比準要素1の会社」外しをすることによって、純資産価額方式と類似業種比準方式との併用方式による評価をすることは認められないとして、純資産価額方式による評価をして処分をしたということであると思われます。
2 相続税の課税価格に算入される財産の価額について評価通達に定める方法により評価した価額を上回る価額として処分をすることについては、最高裁令和4年4月19日判決が、合理的な理由がない限り平等原則に違反するものとして違法となるが、評価通達の定める方法による評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから平等原則に違反するものではないと判断していますので、この判決の事案でも、国側は、③の増資及び剰余金の配当や④の証券投資信託及び外国債約等の取得による「株式保有特定会社」外しや「比準要素1の会社」外しをしたことを指摘して、評価通達の定めによる評価をすることが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるという主張をしたようですが、裁判所は、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとはいえないという判断をしました。
まだ判決が公表されていませんので、そのような判断をした理由について正確には分からないのですが、評価通達が「小会社」の株式について、純資産価額方式と併用方式の両方を合理的な評価方法として認めており、いずれによるかを納税者の選択に委ねていることからすると、純資産価額方式ではなく併用方式により評価することによって、原告らの相続税額が減少したとしても、原告らの相続税額の負担が著しく軽減されるとは評価できないということが理由とされたようです。
3 この判決に対して国側は控訴をしたようですので、控訴審の判断を待つ必要はありますが、類似の事案に対する税務調査における課税庁の対応には影響があるのではないかと思います。
以上