当事務所の取扱事例(税務訴訟)の紹介~特例容積率の限度指定を標準宅地の鑑定評価の際に考慮すべきか否かが問題となった事例~

著者等

山田 重則

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固定資産税還付

詳細情報

本判決は、標準宅地に特例容積率の限度指定がされている場合、その鑑定評価の際にこれを考慮すべきことを明らかにしました。本判決は標準宅地の鑑定評価の際に考慮すべき価格形成要因について判示したものであり、その射程は特例容積率の限度指定がされた標準宅地以外にも広く及ぶと考えられます。

1 はじめに

 当事務所は、東京都千代田区の土地の所有者を代理して、東京都による本件土地の評価方法を争うため、提訴しました。第一審、控訴審ともに当方の主張を認め、東京都による本件土地の評価方法は総務省の定める「固定資産評価基準」に反していると判断されました。課税庁の東京都は、これを不服として最高裁に上告受理申立を行い、現在、最高裁が同申立の可否を検討しています。

 本件は標準宅地に特有の価格形成要因をその鑑定評価の際に考慮すべきか否かが問題となったものであり、仮に本判決が上告審でも破棄されず、確定すれば、先例的意義が大きいものといえます。

2 裁判の経過

 ① 東京地方裁判所令和5年8月31日判決(令和3年(行ウ)第167号)

 ② 東京高等裁判所令和6年4月10日判決(令和5年(行コ)第259号)

3 事案の概要

 ⑴ 原告は、東京都千代田区にある6筆の土地(本件各土地)の所有者です。

 ⑵ 本件各土地及びその周辺の指定容積率は1300%です。

 ⑶ 本件各土地及びその周辺は、「特例容積率適用地区」に指定されています。

 ⑷ 東京都は、平成20年12月8日、本件各土地の特例容積率の限度を1140.2%と指定しました(以下「本件特例容積率の限度指定」といいます)。

 ⑸ 東京都は、本件各土地の平成24年度以降の登録価格の決定の際、本件特例容積率の限度指定を減価要因として考慮しませんでした。

 ⑹ 原告は、東京都の上記⑸の評価方法を争い、一連の裁判の結果、本件特例容積率の限度指定は減価要因として考慮すべきことが確定しました(東京地方裁判所平成29年9月14日判決(行ウ)第205号、東京高等裁判所平成30年2月28日判決(行コ)第289号、最高裁判所平成30年10月5日決定(行ヒ)第270号)。

(筆者注:上記の裁判もまた、当事務所が代理人を務めました)。 

 ⑺ 東京都は、上記⑹の判決の結果を踏まえ、平成27年度と平成30年度の登録価格を修正しました。本件各土地は「標準宅地」に選定されていましたが、本件特例容積率の限度指定は標準宅地の鑑定評価の段階では考慮されず、東京都の内規に従い、路線価の付設の段階で考慮されました。

 ⑻ 原告は、本件特例容積率の限度指定は標準宅地の鑑定評価の段階で考慮される必要があるため、東京都の本件各土地の評価方法は固定資産評価基準に反していると主張し、本件各土地の登録価格の再度の修正を求めました。

4 争点

 本件の主たる争点は、本件各土地の本件特例容積率の限度指定を標準宅地の鑑定評価の際に考慮すべきか否かです。

 原告の主張の要旨は、本件各土地は標準宅地として選定された以上、本件各土地の行政上の規制は標準宅地の鑑定評価の際に考慮すべき要因にあたる、よって、本件特例容積率の限度指定は鑑定評価の際に考慮される必要がある、というものです。

 これに対し、被告の東京都の主張の要旨は、本件特例容積率の限度指定は本件各土地に特有の要因にすぎないから、標準宅地の鑑定評価の際に考慮すべき要因にはあたらない、というものです。

5 裁判所の判断

 ⑴ 第一審判決の要旨

ア 固定資産評価基準は、主要な街路に付設する路線価について、①当該主要な街路に沿接する標準宅地の単位地積当たりの適正な時価に基づいて付設する、②標準宅地が「画地計算法」を適用すべきものであるときは、当該標準宅地の適正な時価に基づき、仮に当該標準宅地の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地があるものとした場合における当該宅地の単位地積当たりの適正な時価を算出し、これに基づいて付設するものとする旨定めている(固定資産評価基準第1章第3節二(一)3(1))。

イ 東京都は、路線価を付設する際、上記①の方法に従ったものではないから、上記②の方法に従ったものであるかが問題となる。

ウ 上記②中の「画地計算法」とは、奥行価格補正割合法、側方路線影響加算法、二方路線影響加算法及び不整形地、無道路地、間口狭小の宅地等評点算出法をいい(固定資産評価基準第1章別表第3)、容積率を調整するものではない。

エ そうすると、標準宅地(容積率を1140%とする本件特例容積率の限度指定がされた本件各土地)の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地として、本件特例容積率の限度指定がない宅地を想定することはできない。

オ 東京都は、標準宅地の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地として、本件特例容積率の限度指定がない宅地(容積率1300%)を想定しているため、これは上記②の方法に従ったものとはいえず、違法である。

(筆者注:標準宅地の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地として、本件特例容積率の限度指定がある宅地を想定する必要があるということは、結局、本件特例容積率の限度指定は鑑定の際に考慮する必要があるということを意味します)。

 ⑵ 控訴審判決の要旨

 原判決が説示するとおり、「画地計算法」は容積率を調整するものではないから、本件の標準宅地に特例容積率の限度指定があることは、標準宅地の単位地積当たりの適正な時価を算出する段階で考慮すべきものである。

(筆者注:上記の「標準宅地の単位地積当たりの適正な時価を算出する段階」というのは、標準宅地の鑑定評価の段階を意味します)。

6 本件の意義

 本件で問題となった、「標準宅地の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地」は、実務上、「標準的画地」と呼ばれ、「仮に当該標準宅地の位置に「画地計算法」を適用する必要がない宅地があるものとした場合における当該宅地の単位地積当たりの適正な時価」は、「1平方メートル当たり標準価格」と呼ばれます。この「1平方メートル当たり標準価格」の7割相当額が「主要な街路」の路線価として付設され、「主要な街路」をもとに「その他の街路」の路線価も付設されます。そして、これらの路線価を基礎として、その標準宅地を含む一定の地域の宅地の評価額が決定されます。

 このように「標準的画地」の適正な時価は、その地域の宅地の評価額の基礎となる点で極めて重要な価格といえます。しかし、筆者の知る限り、この「標準的画地」の鑑定評価の際に考慮すべき価格形成要因について判示したものは他に見当たりません。本判決は、標準宅地の価格形成要因のうち「画地計算法」で考慮されるべき要因以外は標準的画地の価格形成要因として、その鑑定評価の際に考慮される必要がある、という点を明らかにしたと解することも可能であり、その場合、本判決の射程は、本件の特例容積率の限度指定がされた標準宅地以外にも広く及びます。仮に本判決が上告審でも破棄されず、確定すれば、本判決の先例的意義は大きいと考えられます。

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