米国のLLPの法人該当性について
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最近、国税不服審判所で、米国の州法に基づき組成されたLLPについて、我が国の租税法上の「法人」に該当すると判断した裁決が出されました。この裁決は、あくまで特定の州のPartnership Actに基づき設立されたLLPについて判断したものに過ぎませんが米国の他の州のPartnership Actも同じような内容であることが多いようですので、他の州のLLPについても我が国の租税法上の「法人」に該当することになる可能性は高いものと思われます。 |
1 外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するかどうかが問題となることは少なくありませんが、最近、国税不服審判所で、米国のA州(※)の法令に基づき組成されたLimited Liability Partnership(LLP)について、我が国の租税法上の「法人」に該当すると判断した裁決が出されました。
(※)裁決では州名はマスキングされていますが、法令の条文番号からヴァージニア州であることが推認されます。
これまでも、①米国のニューヨーク州の法令に基づき組成されたLimited Liability Company(LLC)が「法人」に該当すると判断した裁判例(東京高裁平成19年10月10日判決)、②米国のデラウェア州の法令に基づき組成されたLimited Partnership(LPS)が「法人」に該当すると判断した判例(最高裁第二小法廷平成27年7月17日判決)、③英国領バミューダ諸島の法令に基づき組成されたLimited Partnership(LPS)が「法人」に該当しないと判断した裁判例(東京高裁平成26年2月5日判決)、④米国のワシントン州の法令に基づき組成されたLimited Partnership(LPS)が「法人」に該当すると判断した裁判例(東京地裁平成29年1月24日判決)などがありましたが、Limited Liability Partnership(LLP)の法人該当性について判断したものはなかったと思われます。
2 まず、この裁決(以下「本裁決」といいます。)は、外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するかどうかについて、以下のような判断基準を示しました。
そして、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法第2条第1項第7号及び法人税法第2条≪定義≫第4号(以下「所得税法第2条第1項第7号等」という。)に規定する外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり(判断基準①)、これができない場合には、次に、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるもの(判断基準②)と解される(平成27年最高裁判決参照)。
なお、これは、最後の括弧書きにも記載されているとおり、上記の最高裁第二小法廷平成27年7月17日判決(以下「平成27年最高裁判決」といいます。)が示した判断基準になります。
3 そして、本裁決は、A州のUniform Partnership Act(以下「州PS法」といいます。)の規定の文言や法制の仕組みから、本裁決で問題となったLLP(以下「本件LLP」といいます。)が州PS法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かについて検討し、以下のように、いずれも疑義のない程度に明白とはいえないと判断しました。
まず、州PS法の規定の文言や法制の仕組みから、本件LLPが、州PS法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否か(上記(イ)の①)について検討する。
(A) 州PS法50-73.87は、上記(ロ)のCのとおり、パートナーシップについて、パートナーとは別個の主体(an entity distinct from its partners) であると規定している。しかしながら、同法を含む米国の法令において「entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく、パートナーとは別個の主体とされていることをもって直ちに日本法上の法人に相当するということはできないから、「an entity distinct from its partners」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ない。また、LLPは、日本法上の法人に相当する法的地位を付与された組織体の取扱いを規定するA州株式会社法(■■■■ Stock Corporation Act)及びA州非株式会社法(■■■■ Non stock Corporation Act)において、「corporation」であるとはされておらず、これらの法令上、「corporation」の定義規定においても「an entity distinct from」等の文言は用いられていないことなども併せ考慮すると、上記のとおり州PS法に基づいて設立されるLLPが「an entity distinct from its partners」となるものと規定されていることをもって、本件LLPに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていることが疑義のない程度に明白であるとすることは困難である。
(B) 他方で、州PS法の定義規定である50-73.79には、上記(ロ)のAの(C)のとおり、パートナーシップが「個人(individual)」や「コーポレーション(corporation) 」等と並んで「法的又は商業上の主体(entity)」とされていることを前提とした上で、上記のようにLLPが「パートナーとは別個の主体」(an entity distinct from its partners) とされている。これらの規定は法人の法的地位と抵触しない内容のものであることなどからすれば、本件LLPに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとすることも困難である。
(C) したがって、州PS法の規定の文言や法制の仕組み等に照らしても、本件LLPが日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。
4 そこで、次に、本裁決は、本件LLPが権利義務の帰属主体であると認められるか否かについて検討し、以下のように、本件LLPは、権利義務の帰属主体であると認められるから、我が国の租税法上の法人に該当すると判断しました。
次に、本件LLPが我が国の租税法上の法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体であると認められるか否か(上記(イ)の②)について検討する。
(A) 州PS法は、利益を目的に2名以上の者が共同所有者として事業を行う団体をパートナーシップといい、この事業には、全ての取引、職業及び専門職を含み(同法50-73.79、上記(ロ)のAの(A)) 、また、パートナーシップは、米国の法律の全ての適用において、登録されたLLPを含むと規定している(同法50-73.79、上記(ロ)のAの(B)及び(D))。そして、州PS法は、パートナーシップが行うことができる事業について制限を設ける規定は特に置いていない。
また、州PS法は、パートナーはパートナーシップとの間で貸付けその他の取引を行うことができ、この場合において、パートナーは、パートナーシップとの関係で、パートナーでない者(「a person」、すなわち個人(individual)、コーポレーション(corporation)等)が有するのと同様の権利及び義務を有する旨規定している(同法50-73.85、上記(a)のB) 。そして、州PS法は、パートナーシップにおけるパートナーは、その事業の目的においてパートナーシップを代理する旨規定しているので(同法50-73.91、上記(ロ)のE) 、パートナーシップのパートナーは、各パートナー(構成員個人)を代理するのではなく、パートナーシップそれ自体を代理することになる。このほか、州PS法においては、「パートナーシップの全ての義務(all obligations of the partnership)」(同法50-73.96A、上記(ロ)のGの(A)) 、「パートナーシップの権限(authority of the partnership)」(同法50-73.95、上記(a)のF) といったパートナーシップ自体が権限を有し又は義務を負うことを示す文言が用いられている一方で、パートナーシップ自体が権利を有さず又は義務を負わず、パートナーのみが権利を有し又は義務を負うことを示す規定や、法律行為の効果がパートナーシップ自体に帰属しないことを示す規定は、同法を通じて見当たらない。
以上によれば、本件LLPの設立根拠法令である州PS法は、A州のLLPに自らの名義で法律行為をする権限を付与するとともに、当該LLPの名義でされた法律行為の効果が当該LLP自身に帰属することを前提としているものと解するのが相当である。
(B) 州PS法は、パートナーシップにより得られた財産は、パートナーシップの財産であり、個々のパートナーのものではないと規定している(同法50-73.89、上記(ロ)のD)。また、州PS法は、パートナーシップにおけるパートナーシップの利益及び損失に関するパートナーヘの割当て及びパートナーの分配を受ける権利である譲渡可能な持分は、それ自体が「人的財産権」(personal property)という財産権の一類型であり(同法50-73.106、上記(ロ)のJ)、パートナーは、パートナーシップの財産の共同所有者ではなく、任意であるか強制であるかを問わず、いかなる移転可能なパートナーシップの財産における持分も保有しないと規定する(同法50-73.105、上記(ロ)のI) とともに、パートナーシップの代理としてのみ、バートナーシップの財産を使用し、又は保有すると規定しでいる(同法50-73.99G、上記(ロ)のHの(C))。
以上によれば、米国一のLLPのパートナーは、米国A州のLLPに属する個々の財産に対して割合的な権利を具体的に有していないものとみるのが相当であり、このことからも、州PS法は、上記(A)のとおり、米国のLLPに自らの名義で法律行為をする権限を付与するとともに、当該LLPの名義でされた法律行為の効果が当該LLP自身に帰属することを前提としているものと解される。
(C) 本件LLP契約においては、本件LLPは、法律サービスを提供し、かつ、これに関連し、又は派生した、時宜に全てのパートナーにより合意された、全ての活動に従事するために組成され(本件LLP契約第2条、上記イの(イ)のA)、パートナーによる本件LLPへの貸付けは、資本として認識されるものではなく、本件LLPの債務として返済されるものとされている(本件LLP契約第12条、上記イの(イ)のE) 。そして、バートナーは、本件LLPの事業運営上のいかなる行為、失敗に関しても、故意・重過失等の場合を除き、本件LLP又は他のパートナーに対して、損害その他の責任を負わないとされている(本件LLP契約第14条(a)、上記イの(イ)のG)。これらのことは、上記(A)においてみたパートナーシップの法律行為の権限及びその効果の帰属に関する州PS法の規定と整合するものということができる。
また、本件LLP契約において、パートナーは、本件LLPの利益や分配の割当以外に、本件LLPに対する役務提供に係る報酬を受領してはならないとされ(本件LLP契約第6条、上記イの(イ)のB)、自己の持分に係る資本の全部又は一部の払戻しもそれに付随する利息を受ける権利も有しないとされている(本件LLP契約第10条(a)、上記イの(イ)のCの(A))。これらのことも上記(A)及び(B)においてみたLLPにおける法律行為の権限やその効果の帰属及びLLPに係るパートナーの持分に関する州PS法の規定と整合するものということができる。
そして、以上のほか、本件LLP契約の各条項の中に、上記(A)及び(B)の米国一のLLPの法律行為の権限及びその効果の帰属並びに米国A州のLLPに係るパートナーの持分に関する州PS法の規定と抵触する内容の定めは見当たらない。
(D) 以上のような州PS法等の定めに鑑みると、本件LLPは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LLPに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。
そうすると、本件LLPは、我が国の租税法上の法人に該当し、所得税法第2条第1項第7号等に規定する外国法人に該当するものというべきである。
5 米国のLLPを参考に作られたと言われている有限責任事業組合が法人ではなく組合であるとされていることからすると、少し意外な結論であるとも思えますが、平成27年最高裁判決が示した判断基準に州PS法の規定を当てはめると、上記のような帰結になるのだと思います。
そして、本裁決は、あくまでA州の州PS法に基づき設立されたLimited Liability Partnership(LLP)について判断したものに過ぎませんが、原処分庁も指摘しているとおり、A州の州PS法は、米国州統一委員会が作成したUniform Partnership Act(1997)に準拠したものであって、米国の他の州のPartnership Actも同じような内容であることが多いようですので、他の州のLLPについても我が国の租税法上の「法人」に該当することになる可能性は高いのではないかと思われます。
6 なお、米国のLPSについては、国税庁が、平成27年最高裁判決にかかわらず、構成員課税の団体(パス・スルー事業体)として取り扱うことを否定しない旨を明らかにしているのですが、LLPについては明らかにされていません。
この取扱いの趣旨からすれば、LLPについても同様の取扱いが認められてもよいのではないかと思われますが、そもそも平成27年最高裁判決で示された法令の解釈には反する取扱いですので、そのような取扱いを「類推適用」してよいかは悩ましいところではないかと思われます。
以上
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