複合構造家屋に「低層階方式」に基づいて経年減点補正率を適用することは適法か。

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山田 重則

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固定資産税の金額を大きく左右する「経年減点補正率」は建物の構造(SRC造、RC造、S造)によって異なります。そして、1つの建物が複数の構造から成る「複合構造家屋」において、低層階の構造の経年減点補正率を建物全体に適用する方式を「低層階方式」といいます。低層階方式の適法性については、裁判所の判断が分かれており、今後、最高裁によって判断が示されることも期待されます。

 

1 「経年減点補正率」とは

固定資産税の金額は、固定資産(土地、建物、償却資産)の評価額に応じて決まります。そして、建物の評価額は、「再建築価格方式」に基づいて計算されます。「再建築価格方式」では、評価時にその建物を再度、建築したと仮定した場合に通常必要となる建築費を求め、これに建築時からの経過年数、損耗の程度等による減価を考慮して評価を行います。この建築時からの経過年数、損耗の程度等による減価を考慮するために用いられるのが「経年減点補正率」です。

「経年減点補正率」は、「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)/鉄筋コンクリート造(RC造)」と「鉄骨造(S造)」とで大きく異なります。前者の構造の建物のほうが後者の構造の建物よりも耐用年数が長いため、前者の建物の経年減点補正率は後者の建物の経年減点補正率よりも緩やかに減少します。つまり、前者の構造の建物のほうが後者の構造の建物より劣化しづらいため、建築時から時間が経っても、評価額が下がりにくいという特徴があります。納税者からすると、SRC造/RC造の建物の固定資産税は、S造の建物の固定資産税と比べ、建築時から時間が経っても下がりにくいということになります。

2 複合構造家屋の「低層階方式」

ある建物全体が単一の構造であれば、その構造の経年減点補正率を適用すれば足りるため、さほど問題は生じません(もっとも、自治体が建物の構造の判定を誤ることは多々あります)。しかし、たとえば、建物の低層階はSRC造であり、中層階以降はS造であるという「複合構造家屋」も広く一般に存在します。高層の建物になるほど建物の自重が大きくなるため、低層階は強固なSRC造としつつ、中層階以降は軽いS造で済ませるという複合構造が採用されることがあります。

このように建物の構造が単一ではない、「複合構造家屋」の場合、どちらの経年減点補正率をどのように適用すべきかが問題となります。近年では、建物の構造ごとに経年減点補正率を適用することが一般的になりつつあります。つまり、先の例のような建物の場合、低層階部分にはSRC造/RC造の経年減点補正率を適用し、中層階以降の部分にはS造の経年減点補正率を適用することが行われています。しかし、過去、自治体によっては、低層階がSRC造/RC造の場合には、中層階以降がS造であったとしても、建物全体にSRC造/RC造の経年減点補正率を適用することが行われていました。これを「低層階方式」といいます。

低層階方式によると、低層階部分がSRC造/RC造であると、建物全体がSRC造/RC造と扱われて経年減点補正率が適用されます。SRC造/RC造の占める割合が建物全体からすればわずかであったとしても、建物全体がSRC造/RC造と扱われて経年減点補正率が適用されるため、納税者からすると、建築時から時間が経っても固定資産税が下がりにくいということになります。そのため、低層階方式は、過去、納税者から度々、裁判でその可否が争われてきました。

3 裁判例の状況

 ⑴ 低層階方式を適法と判断した裁判例

  ① 東京地判平成25年7月5日

    →控訴審の東京高判平成25年11月21日も同様。

  ② 広島地判令3年7月19日

  ③ 福岡地判令3年8月18日

  ④ 大阪高判令和5年1月26日

 ⑵ 低層階方式を違法と判断した裁判例

  ① 大阪地判令4年3月24日

    →控訴審の大阪高判令和5年1月26日は上記のとおり適法と判断。

  ② 大阪地判令4年3月25日

    →控訴審の大阪高判令和4年12月13日も同様。

4 双方の判断の要点

低層階方式については、上記のとおり、多くの裁判例で争われているため、その判断は多岐にわたります。ただ、筆者としてはその判断の要点は、以下のとおりと考えています。

⑴ 低層階方式を適法と判断した裁判例

低層階方式を適法と判断した裁判例は、「家屋の取壊しは一棟単位で行われる」、「複合構造家屋では基礎部分となる低層階が維持されている限り、上層階は補修することで維持することが可能であり、低層階が傷んだ場合に取壊しがなされると考えることも合理性がある」、「したがって、低層階の構造の経年減点補正率を適用することもまた自治体の裁量の範囲内にある」、ということを適法と判断する理由として挙げています。

上記の判断は要するに、低層階部分が維持されている限り、上層階は補修で維持することが可能なのであるから、建物としての耐用年数は低層階部分の構造によって判断することも合理的である、というものです。

⑵ 低層階方式を違法と判断した裁判例

低層階方式を違法と判断した裁判例は、「経年減点補正率は年数の経過に応じて通常生じる減価相当額を基礎として算定された補正率である」、「年数の経過に応じて通常生じる減価相当額は建物の構造ごとに異なる」、「したがって、建物の構造ごとに通常生じる減価相当額を可能な限り反映させることが固定資産評価基準に整合する」、「この点、低層階方式は建物の構造ごとに通常生じる減価相当額を可能な限り反映させるものではなく、固定資産評価基準に沿ったものとはいえない」、ということを違法と判断する理由として挙げています。

上記の判断は要するに、建物の構造ごとに通常生じる減価相当額を可能な限り反映させることが固定資産評価基準において要請されているところ、低層階方式はそのような要請に応えるものではない、というものです。

5 私見

複合構造家屋の場合、経年減点補正率をどのように適用すべきかという点は、固定資産評価基準には何ら定めがありません。何ら定めがない以上、これは自治体に対し、その適用方法の判断について裁量を与えたものとみる余地もあります。仮に裁量があるとすれば、低層階方式は著しく不合理といえない限り、違法にはならないとの判断に結び付くといえます。

しかし、固定資産評価基準の適用の如何は固定資産の評価額に直結し、納税者の納付する固定資産税の金額を左右します。そして、租税法は侵害規範であり、租税公平主義の要請も働くため、文理解釈が基本とされます。そのため、「書かれていない以上、課税庁に裁量がある」と安易に判断することは許されず、あくまで固定資産評価基準の定める経年減点補正率の趣旨に立ち返ってその適法方法の可否を判断すべきと考えます。

また、低層階方式を適法と判断した裁判例が理由の出発点として挙げる、「家屋の取壊しは一棟単位で行われる」という考え方は、資産評価システム研究センターの平成11年度の「家屋評価に関する調査研究」で示されたものです。しかし、この考え方は、同センターの平成19年度の同調査研究で実質的には否定されたものと考えられます。すなわち、平成19年度の同調査研究は、「そもそも現行評価基準における経年減点補正率は、「建物を何年で取り壊すのか」をもとに算定されたものではな」いと述べて、家屋の取壊しと経年減点補正率の関係性を否定し、また、「当委員会は、将来に向けて、これまで例外的な取り扱いをしてきた用途・構造別にそれぞれ経年減点補正率を適用する方法を、より積極的に活用することについても検討していくことを提案する」と述べました。もっとも、その後、同センターの平成25年度の同調査研究は、結論として、複合家屋の経年減点補正率は一棟単位で行うことが原則である旨を述べ、平成11年度の同調査研究に寄った考え方を示すに至りました。ただし、このように資産評価システム研究センターの考え方も揺れ動いているということ自体、複合構造家屋の経年減点補正率の適用のあり方は慎重に考えるべきことを示すものといえます。

低層階方式の可否は非常に難しい問題ですが、私見としては違法と判断する裁判例の論理のほうがより説得的であるように感じられます。

6 最後に

前述の裁判例の状況で挙げたとおり、大阪地方裁判所は令和4年に立て続けに低層階方式を違法とする判断を下しました(大阪地判令4年3月24日、大阪地判令4年3月25日)。しかし、その後の控訴審で大阪高等裁判所は、一方の事件では低層階方式を適法と判断し、他方の事件では低層階方式を違法と判断しました(大阪高判令和5年1月26日、大阪高判令和4年12月13日)。このように同じ大阪高等裁判所であっても裁判体によって低層階方式の適法性判断が分かれています。そして、いずれの裁判も現在、最高裁に上告受理申立がなされています。控訴審の判断が分かれていることから最高裁が判断を下すことが期待されます。

以上

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