自民党「Web3ホワイトペーパー2024」における税制改正の提言

著者等

瀧谷 耕二

出版・掲載

TLOメールマガジン

業務分野

タックスプランニング 税務相談

詳細情報

2024年4月に自民党から「web3ホワイトペーパー2024」が公表されました。税制については、①個人が保有する暗号資産に対する所得課税の見直しと、②暗号資産による寄附の課税上の取扱いの明確化及び見直しに関する提言がなされています。2022年3月に公表された「NFTホワイトペーパー」や2023年4月に公表された「web3ホワイトペーパー2023」の提言が、その後の暗号資産関する税制の動きに大きな影響を及ぼしましたので、「web3ホワイトペーパー2024」の提言も、今後の税制改正等に少なからぬ影響を及ぼす可能性があります。

1 自民党が「web3ホワイトペーパー2024」を公表

2024年4月12日に自民党のデジタル社会推進本部web3プロジェクトチームから「web3ホワイトペーパー2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ ~」(以下「web3ホワイトペーパー2024」といいます。)が公表されました。2022年3月に公表された「NFTホワイトペーパー(案)~Web3.0時代を見据えた我が国のNFT戦略~」(以下「NFTホワイトペーパー」といいます。)と2023年4月に公表された「web3ホワイトペーパー~誰もがデジタル資産を利活用する時代へ~(案)」(以下「web3ホワイトペーパー2023」といいます。)に続くWeb3推進に向けた政策提言となります。

「NFTホワイトペーパー」や「web3ホワイトペーパー2023」は、その提言に沿う形で、法人が保有する暗号資産のうち一定の要件を充足するものについて期末時価評価の対象から除外する税制改正が行われたりするなど、暗号資産に関する税制の動きに大きな影響を及ぼしましたので、「web3ホワイトペーパー2024」も、今後の税制改正等に少なからぬ影響を及ぼす可能性があります。

2 「web3ホワイトペーパー2024」の提言内容

「web3ホワートペーパー2024」の提言は、税制に関するものだけでなく、AIなど他分野との横断的検討の推進、国際的なルールの策定への我が国の貢献、VC(Verifiable Credentials)及びDID(分散型 ID)の利活用推進、暗号資産発行企業等の会計監査の機会確保、DAO の活用促進、パーミッションレス型ステーブルコインの流通促進、セキュリティトークンの流通促進、NFT利活用の活性化、web3を活用したわが国のコンテンツ産業の海外展開支援、安心・安全な利用環境の整備、地方創生におけるweb3の活用など多岐に渡りますが、ここでは、税制に関するものだけを取り上げることにします。

(1) 個人が保有する暗号資産に対する課税の見直し

ア まず、「web3ホワイトペーパー2024」は、個人が保有する暗号資産に対する課税について、①暗号資産の取引により生じた損益を20%の税率の分離課税の対象とすること、②暗号資産にかかる損失の所得金額からの繰越控除(翌年以降3年間)を認めること、③暗号資産デリバティブ取引も同様に分離課税の対象にすることが検討されるべきという提言をしています。これは、現行法の下では、暗号資産取引から生じた所得は雑所得に該当するものと解されており、利益が生じた場合には最高税率(55%)で課税されることになるのに対して、損失が生じた場合には他の所得と通算することができない上に翌年以降に繰越すこともできないという点で厳しい取扱いとなっているため、それを是正する必要があるという提言です。

この提言は、自民党のデジタル社会推進本部が2022年11月に公表した「web3 関連税制に関する緊急提言」や「web3ホワイトペーパー2023」においても行われているのですが、令和4年(2022年)度及び令和5年(2023年)度の税制改正の大綱に盛り込まれることはありませんでしたので、その実現のハードルは高いのだろうと思われます。

ただ、他方で、「web3ホワイトペーパー2024」も指摘しているとおり、海外では暗号資産を原資産とした上場投資信託(ETF)が組成されており、日本においても、暗号資産を現物とするETFを組成することを可能とするために暗号資産を「特定資産」(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に入れるかどうかの検討がなされているようです。

そして、仮に、日本において暗号資産を原資産としたETFが組成されることができることになった場合には、暗号資産を原資産とするETF取引が分離課税の対象となるにもかかわらず、暗号資産の現物取引が総合課税の対象となるという不均衡が生じることになりますので、それを避けるためにも、例えば、「特定資産」として認められた暗号資産の現物取引に限って分離課税の対象とするといった改正が実現する可能性はあるように思います。

イ また、「web3ホワイトペーパー2024」は、個人が保有する暗号資産に対する課税について、暗号資産同士を交換したタイミングでは課税せず、保有する暗号資産を法定通貨に交換したタイミングでまとめて課税対象とすることが検討されるべきという提言もしています。これは、要するに、暗号資産同士を交換した場合には暗号資産が法定通貨に交換されるまで課税を繰り延べるべきという提言です。

この提言も、暗号資産の取引を分離課税の対象とすべきとする提言と同様に、「web3 関連税制に関する緊急提言」や「web3ホワイトペーパー2023」においても行われているのですが、令和4年(2022年)度及び令和5年(2023年)度の税制改正の大綱に盛り込まれることはありませんでしたので、その実現のハードルは高いのだろうと思われます。

そして、この提言というのは、例えば、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)にBTC等の暗号資産で投資をしたような場合に所得が実現したものとして課税されると納税が困難となるという事情を背景としたものであると思われるのですが、そのような事情というのは、改正の理由としてはやや弱いようにも思えますし、他の資産については同種の資産と交換をしても課税されることが原則であることからすると、暗号資産を特に優遇すべきということになるとも思えませんので、個人的には、近いうちにそのような改正が実現する可能性は高くないのではないかと考えています。

(3) 暗号資産による寄附の課税上の取扱いの明確化及び見直し

ア 次に、「web3ホワイトペーパー2024」は、法人又は個人が暗号資産を国、地方公共団体、公益法人等に寄附した場合に、金銭等を寄附した場合と同様に所得控除や損金算入の対象となり得ることを通達やタックスアンサー等により明確化すべきである旨を提言しています。これは、暗号資産による寄附が「特定寄附金」(所得税法78条2項)や「寄附金」(法人税法37条1項)に該当するかが明確にされていないために、暗号資産による寄附を阻害する要因になっているという事情を背景とした提言のようです。

この点、暗号資産による寄附が「特定寄附金」(所得税法78条2項)や「寄附金」(法人税法37条1項)に該当しない理由はないと思われますので、それが「明確にされていない」ために「暗号資産による寄附を阻害する要因となっている」という指摘には、やや違和感もあるのですが、逆に明確化できない理由もないと思われますので、この提言を受けて、タックスアンサーやQ&Aで明らかにされる可能性は高いものと思われます。

イ また、「web3ホワイトペーパー2024」は、個人が暗号資産を国、地方公共団体、公益法人等に寄附した場合に、みなし譲渡所得税等の非課税の特例(租税特別措置法40条1項)と同様の措置を講じるべきであるという提言をしています。これは、個人が暗号資産を寄附(贈与)した場合には、その寄附をした時の時価を総収入金額に算入しなければならないこととされており(所得税法40条1項、所得税法施行令87)、個人が暗号資産を国、地方公共団体、公益法人等に寄附(贈与)した場合でも含み益に対する課税がなされることになってしまうことから、そのような場合には寄附(贈与)をなかったものとみなす旨の特例を設けてもらいたいという提言です。不動産や有価証券や絵画等を国、地方公共団体、公益法人等に寄附(贈与)した場合には、所得税法59条1項の規定の適用について、その寄附(贈与)をなかったものとみなす旨の特例(租税特別措置法40条1項)があるのですが、所得税法59条1項は譲渡所得に関する規定ですので、暗号資産の寄附(贈与)には適用されないため、同様の特例を設けてもらいたいということです。

この提言については、国、地方公共団体、公益法人に対する暗号資産による寄附を促進するためには、そのような特例が必要になることは間違いありませんし、租税特別措置法40条1項の特定と同様の要件が課される限り、特に弊害もないと思われますので、そのような特例を設ける改正がなされる可能性は相応にあるようには思われます。

ただ、公益法人等に対する寄附(贈与)について、租税特別措置法40条1項の特例の適用を受けるためには、原則として、寄附(贈与)を受けた資産を公益法人等の公益目的事業の用に直接供されなければならないものとされており、寄附(贈与)を受けた資産を換価することは認められていませんので、暗号資産の寄附(贈与)について、租税特別措置法40条の特例と同様の特例を設けたとしても、公益法人等に対する寄附については、利用できる場合がかなり限定されることになるのではないかとは思われます。

以上

関連する論文

瀧谷 耕二の論文

一覧へ