有期雇用契約の更新後の労働条件について、使用者と労働者とが合意に至らない場合、両者の契約関係はどうなるか
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「使用者がそれまでの有期雇用契約とは異なる労働条件で更新を求めたものの、労働者がこれを拒絶した」という事案において、従前の契約内容と使用者が提示した変更後の契約内容に大きな差異があり、もはや従前の契約内容の変更にとどまらない場合には、労働契約法19条により、原則として、従前と同じ労働条件で両者間の有期雇用契約が更新されることになります。 |
1 問題の所在
使用者と労働者間の契約が有期雇用契約の場合、通常は、契約期間の満了により両者間の契約関係は終了となります。
しかし、両者間の有期雇用契約が反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合や労働者に契約が更新されることについての合理的な期待が認められる場合、原則として、それまでの有期雇用契約は更新され、両者の契約関係は継続することになります(雇止め法理)。
雇止め法理は、以下のとおり、労働契約法19条で明文化されています(①~③の番号は筆者が付しました)。
労働契約法19条 ①有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの②契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、③使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。 二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。 |
すなわち、労働契約法19条は、
① 有期雇用契約が反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できること、又は、労働者に契約が更新されることについての合理的な期待が認められること
② 契約期間満了前に労働者が契約の更新の申込みをしたこと、又は、契約期間の満了後遅滞なく労働者が契約締結の申込みをしたこと
③ 使用者が労働者の②の申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと
という3つの要件を満たす場合には、それまでの有期雇用契約と同一の労働条件で、両者間の有期雇用契約が更新される旨定めています。
②と③の要件から明らかなとおり、労働契約法19条が適用される典型的な事案というのは、「労働者が有期雇用契約の更新を求めたものの、使用者が更新を拒絶した」というものです。
それでは、「使用者がそれまでの有期雇用契約とは異なる労働条件で更新を求めたものの、労働者がこれを拒絶した」という事案には、労働契約法19条は適用されるのでしょうか。
労働契約法19条が適用されるのであれば、原則として、使用者による労働条件の変更は認められず、それまでの有期雇用契約と同一の労働条件で両者間の有期雇用契約が更新されることになります。他方で、労働契約法19条が適用されないのであれば、両者間の有期雇用契約は契約期間の満了により終了することになります。
2 参考判例
⑴ 「特別専任教員」から「非常勤教員」への変更(適用肯定)
東京地判平成28年11月30日労判1154号81頁(東京高判平成29年5月31日判例秘書登載)は、定年後、「特別専任教員」として期間1年の契約を締結した大学の教員が、契約更新の際、大学から「特別専任教員」ではなく、「非常勤教員」としての契約更新を求められたため、そのような契約更新を拒絶したという事案です。
裁判所は、本事案について、労働契約法19条の適用を認めた上で、大学側が「特別専任教員」としての契約更新を拒絶することについては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、当該教員に「特別専任教員」としての地位を認めました。
⑵ 「フルタイム」から「短時間勤務」への変更(適用肯定)
東京地判平成30年5月11日労判1192号60頁は、それまで雇用形態を「フルタイム」として有期雇用契約を締結したタクシー乗務員が、契約更新の際、会社から「フルタイム」ではなく、「短時間勤務」としての契約更新を求められたため、そのような契約更新を拒絶したという事案です。
裁判所は、本事案について、労働契約法19条の適用を認めた上で、会社側が「フルタイム」としての契約更新を拒絶することについては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、当該タクシー乗務員の求める賃金の仮払いを一部認めました。
⑶ 「週7コマ前後」から「週4コマ」への変更(適用否定)
福岡地判平成20年5月15日労判989号50頁(福岡高判平成21年5月19日労判989号39頁、最三小判平成22年4月27日労判1009号5頁)は、大手受験予備校の非常勤講師が、契約更新の際、会社から、1週間に担当する授業のコマ数について、「週7コマ前後」から「週4コマ」に変更を求められたため、そのような契約更新を拒絶したという事案です。
一審は、本事案について、予備校側の「雇止め」ではあるものの、雇止めは有効であると判断しました。他方で、二審は、そもそも「雇止め」ではないとして、解雇権濫用法理の類推適用(現 労働契約法19条)の適用を否定し、最高裁もこれを維持しました。
3 検討
上記2のとおり、「使用者がそれまでの有期雇用契約とは異なる労働条件で更新を求めたものの、労働者がこれを拒絶した」という事案において、裁判所が労働契約法19条の適用を認めたものと認めなかったものがあります。
この点、1つ目の参考判例の「特別専任教員」と「非常勤教員」、2つ目の参考判例の「フルタイム」と「短時間勤務」は、そもそも契約形態が異なるといえ、使用者側は、従前の契約内容の一部を変更する形で新たな契約内容を提示したとはいえないとの評価が可能です。
他方で、3つ目の参考判例の「週7コマ前後」から「週4コマ」への変更は、非常勤講師という契約形態は維持しつつ、使用者側は、従前の契約内容の一部を変更する形で新たな契約内容を提示したとの評価が可能です。
4 まとめ
「使用者がそれまでの有期雇用契約とは異なる労働条件で更新を求めたものの、労働者がこれを拒絶した」という事案では、使用者からすると、労働者自身が契約の更新を拒絶した以上、従前の有期雇用契約は終了すると考えるかもしれません。
しかし、本稿で検討したとおり、従前の契約内容と使用者が提示した変更後の契約内容に大きな差異があり、もはや従前の契約内容の変更にとどまらない場合には、労働契約法19条により、原則として、従前と同じ労働条件で両者間の有期雇用契約が更新されることになります。使用者としては、この点には十分に留意する必要があるでしょう。
以上