償却資産に係る申告を誤った場合の対応方法
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償却資産に係る申告は、法人税等の申告とは法的位置づけが異なり、誤って過大に申告した場合の「更正の請求」といった手段も認められていません。しかし、実務上は、所有者が正しく申告をやり直せば、自治体から最大で直近5年分の還付金が支払われます。また、その際には、還付加算金も付されます。 |
1 償却資産に係る固定資産税の税額決定までの過程
償却資産に係る固定資産税の税額は、償却資産課税台帳に登録された価格(課税標準)に1.4%(税率)を乗じて計算します。地方税法の定める税額決定までの過程は、以下のとおりです。
① 償却資産の所有者は、毎年1月1日現在の償却資産の所在、種類、数量、取得時期、取得価額、耐用年数、見積価額等の償却資産課税台帳の登録及び当該償却資産の価格の決定に必要な事項を、1月31日までにその償却資産の所在する市町村長に申告しなければなりません(地方税法383条)。
② 市町村の固定資産評価員等は、実地調査を行います(地方税法408条)。
③ 固定資産評価員等は、毎年1月1日現在の償却資産の価格に基づき、当該償却資産の評価を行い、その結果を市町村長へ提出します(地方税法409条3項、4項)。
償却資産の評価は、総務省「固定資産評価基準」(償却資産)に従って行われる必要があります(地方税法403条1項)。
④ 市町村長は、③の結果を踏まえ、償却資産の価格等を毎年3月31日までに決定します(地方税法410条1項)。
⑤ 市町村長は、④の決定をした場合には、直ちに償却資産の価格等を償却資産課税台帳に登録の上、公示しなければなりません(地方税法411条1項、2項)。
⑥ 償却資産に係る固定資産税の課税標準は、償却資産課税台帳に登録された価格です(地方税法349条の2)。
⑦ 一定の場合には課税標準の特例を適用して課税標準を修正します。
⑧ 課税標準に標準税率1.4%を乗じて償却資産に係る固定資産税を算出します(地方税法350条)。なお、東京都特別区を含め多くの市町村は標準税率を採用しています。
⑨ 以上の過程を経て税額が確定した後、市町村は、納税者に対し納税通知書の交付を行い、固定資産税の徴収がなされます(地方税法364条)。
2 償却資産に係る申告の法的位置づけ
上記のとおり、地方税法上は、所有者が申告すべきことは、償却資産の取得時期、取得価額、耐用年数等の事項の申告にとどまります。これらの事項に固定資産評価基準(償却資産)を適用して、当該償却資産の評価額(価格)を決定するのは、本来、市町村長の役割です。
しかし、資産件数が膨大にあったり、申告すべき自治体が多数ある企業では、「電算処理方式」による申告が広く行われています。そして、東京都特別区を含め多くの市町村では、「電算処理方式」による申告を認める要件の1つとして、償却資産の評価額(価格)と課税標準の申告を求めています(※1)。そのため、実務上は、所有者は、自ら固定資産評価基準(償却資産)を適用した上で、償却資産の評価額(価格)と課税標準を計算し、これを自治体に申告する必要があります。
所有者が償却資産の評価額(価格)と課税標準を含めて自治体に申告した場合、通常は、その申告の通りに償却資産課税台帳に価格が登録されて税金が徴収されます。そのため、所有者としては、償却資産に係る申告は、「申告納税方式」の税金(法人税や消費税等)の申告と似ていると感じられるかもしれません。
しかし、償却資産に係る固定資産税は、あくまでも自治体が税額を計算し、これを納税義務者に通知する「賦課課税方式」の税金です。所有者の償却資産に係る申告は、自治体が当該償却資産の評価額(価格)を決定する上で必要となる事実の告知にすぎません。償却資産に係る申告は、「申告納税方式」の税金の申告とは、法的位置づけが異なるという点には注意が必要です。
3 所有者が誤って過大な申告をしてしまった場合の対応方法
上記のとおり、所有者が償却資産の評価額(価格)と課税標準を含めて自治体に申告した場合、通常は、その申告の通りに償却資産課税台帳に価格が登録されて税金が徴収されます。そのため、仮に、所有者が償却資産の評価額(価格)や課税標準を誤って過大に申告してしまった場合、自治体も過大に税金を徴収することになります。
所有者が誤って過大な申告をしてしまった場合、「申告納税方式」の税金で認められている「更正の請求」といった手段は、法律上は認められていません。しかし、実務上は、所有者が申告をやり直し、その申告内容を自治体も正しいと認めた場合には、償却資産課税台帳の登録価格に「重大な錯誤」(地方税法417条1項)があったとして、その登録価格が修正されます。その結果、自治体が過大に徴収した償却資産に係る固定資産税は、所有者に還付されます。
ただし、自治体が償却資産課税台帳の登録価格を修正できるのは、直近5年分に限られるため(地方税法17条の5第4項)、自治体による還付も最大で直近5年分となります。それ以上の期間、自治体に過大に税金を徴収されたとしても、その全額は還付されないということになります。
4 還付金が発生した場合の還付加算金の要否
上記のとおり、所有者が誤って過大な申告をしてしまった場合、所有者が正しい申告をやり直せば、自治体から還付金が支払われます。では、その場合、その還付金に還付加算金(利子に相当する額)は付されるのでしょうか。そもそも所有者が誤って過大な申告をした点に原因があるとすれば、感覚的には還付加算金までは付されないようにも感じられます。
しかし、市町村長は、「賦課決定…により納付し又は納入すべき額が確定した地方団体の徴収金に係る過納金」については、納付の翌日から還付金の支出を決定した日までの期間の日数に応じて還付加算金を付さなければなりません(地方税法17条の4第1項1号)。そして、上記の「賦課決定」とは、「普通徴収」の方法によって徴収する地方税の税額を確定する処分をいうところ(地方税法17条の4第1項1号かっこ書き)、固定資産税の徴収は「普通徴収」の方法によらなければならないとされています(地方税法364条)。よって、土地や家屋ばかりでなく、償却資産に係る固定資産税についても、還付金が発生した場合には、還付加算金を付さなければなりません。
以上
引用:
※1 東京都主税局 都税事務所 令和6年度固定資産税(償却資産)申告の手引き
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/files/R6_shinkokutebiki.pdf