自民党「Web3ホワイトペーパー」における税制改正の提言
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令和5年4月10日に自民党からWeb3推進に向けた政策提言を内容とする「Web3ホワイトペーパー」が公表されました。税制については、他社が発行した暗号資産のうち短期売買目的でないものを期末時価評価課税の対象から除外すべきであるという提言と、個人が行った暗号資産の取引により生じた損益について申告分離課税の対象とすべきであるという提言と、個人が暗号資産同士を交換した場合に暗号資産を法定通貨に交換するまで課税を繰り延べるべきであるという提言がなされています。令和4年3月に自民党から公表された「NFTホワイトペーパー」がその後の暗号資産やNFTに関する税制の動きに大きな影響を及ぼしましたので、「Web3ホワイトペーパー」も今後の税制改正等に少なからぬ影響を及ぼすことが想定されます。 |
1 自民党が「Web3ホワイトペーパー」を公表
令和5年4月10日に自民党のデジタル社会推進本部Web3プロジェクトチームから「Web3ホワイトペーパー~誰もがデジタル資産を利活用する時代へ ~(案)」(以下「Web3ホワイトペーパー」といいます。)が公表されました。令和4年3月に公表された「NFTホワイトペーパー(案)~Web3.0時代を見据えた我が国のNFT戦略~」(以下「NFTホワイトペーパー」といいます。)に続くWeb3推進に向けた政策提言となります。
そして、「NFTホワイトペーパー」は、それを契機として、令和5年度の税制改正によって、自己が発行した暗号資産のうち一定の要件を充足するものについて期末時価評価の対象から除外する改正が行われたり、国税庁から「NFTに関する税務上の取扱いについて(情報)」が公表されたりするなど、暗号資産やNFTに関する税制の動きに大きな影響を及ぼしましたので、「Web3ホワイトペーパー」も、今後の税制改正等に少なからぬ影響を及ぼすことが想定されます。
2 「Web3ホワイトペーパー」の提言内容
「Web3ホワートペーパー」の提言は、税制に関するものだけでなく、国際的なルールの策定、会計基準等の整備・策定、DAOに関する特別法の制定、トークンの審査・発行・流通環境の整備、無許諾NFTへの対策、金融機関のWeb3事業への参入基準の明確化など多岐に渡りますが、ここでは、税制に関するものだけを取り上げることにします。
(1) 法人が保有する暗号資産の期末時価評価の見直し
まず、「Web3ホワイトペーパー」は、スタートアップ支援やブロックチェーンの研究開発を含むWeb3ビジネスのエコシステムの発展を支援する観点から、他社が発行したトークン(暗号資産)のうち短期売買目的でないものを期末時価評価課税の対象から除外すべきであるという提言をしています。上記のとおり、令和5年度の税制改正によって、自己が発行した暗号資産のうち一定の要件を充足するものについて期末時価評価の対象から除外する改正が行われたところですが、期末時価評価の対象から除外する範囲を他社が発行したものにまで広げるべきであるという提言です。
この点については、自己が発行した暗号資産についても、期末時価評価の対象から除外されるための要件として、発行の時から継続して保有していることや、他の者に移転することができないようにする技術的措置等によって譲渡制限が行われたものであることが必要とされたことからすると、他社が発行した暗号資産について、短期売買目的でないものという要件だけで期末時価評価の対象から除外することが認められるようになるとは考えにくいのですが、「Web3ホワイトペーパー」において、「今年確実に実現すべきである」とまで提言されていることからすると、他の者に再移転することができないようにする技術的措置等によって譲渡制限が行われたものであることといったような要件の下で、他社が発行した暗号資産についても期末時価評価の対象から除外するような改正がなされる可能性は十分にあるように思われます。
(2) 個人が保有する暗号資産に対する課税の見直し
次に、「Web3ホワイトペーパー」は、個人が保有する暗号資産に対する課税について、①暗号資産の取引により生じた損益について20%の税率による申告分離課税の対象とすること、②暗号資産にかかる損失の所得金額からの繰越控除(翌年以降3年間)を認めること、③暗号資産デリバティブ取引についても、同様に申告分離課税の対象にすることが検討されるべきという提言をしています。現行法の下では、暗号資産取引から生じた所得は雑所得に該当するものと解されており、利益が生じた場合には最高税率(55%)で課税されることになるのに対して、損失が生じた場合には他の所得と通算することができない上に翌年以降に繰越すこともできないという点で厳しい取扱いとなっているため、それを是正する必要があるという提言です。
この点については、先物取引から生じた所得について申告分離課税が認められていることからすると、暗号資産取引から生じた所得についても申告分離課税が認められてもよいのではないかとも思われますし、国外転出時課税の対象となっていないことも相まって、多額の含み益を抱えた暗号資産を保有する納税者の海外流出に繋がっているようにも思われますので、近いうちに暗号資産を国外転出時課税の対象とすることとセットで暗号資産取引による所得を申告分離課税の対象とする改正が行われる可能性は十分にあるように思われます。
また、「Web3ホワイトペーパー」は、個人が保有する暗号資産に対する課税について、暗号資産同士を交換したタイミングでは課税せず、保有する暗号資産を法定通貨に交換したタイミングでまとめて課税対象とすることが検討されるべきという提言もしています。これは、要するに、暗号資産同士を交換した場合には暗号資産が法定通貨に交換されるまで課税を繰り延べるべきという提言です。
この点については、例えば、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)にBTC等の暗号資産で投資をしたような場合に所得が実現したものとして課税されると納税が困難となるという事情も分かるのですが、そのような事情というのは、改正の理由としてはやや弱いようにも思えますし、暗号資産を転々と交換した場合にも課税の繰延を認めてしまうと所得の把握が困難となるようにも思えますので、個人的には、近いうちにそのような改正が実現する可能性は高くないのではないかと考えています。
以上