今年4月~企業規模に関わらず月60時間超の時間外労働割増賃金率が50%以上になります
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時間外労働の割増賃金率は原則として25%以上とされています。しかし、特に長い時間外労働を抑制し従業員の健康を確保するため、2008年の法改正で、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上に引き上げられており、大企業については、2010年4月から既に施行されています。これまで中小企業(※1)への適用は猶予されてきましたが、今年3月をもって猶予期間は終了します。 今年4月からは、中小企業においても、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられます。割増賃金率引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、労使協定を締結することにより、代替休暇の制度を設けることも可能です。 適用まで期日が迫っていますので、就業規則の改訂などを含め、速やかにご対応ください。 ※1 中小企業 「①資本金の額または出資の総額」と「②常時使用する従業員数」のいずれかが以下の基準を満たしていれば中小企業に該当します。(企業単位で判断されます。)業種の分類は、総務省「日本標準産業分類」に従います。
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1 割増賃金率引き上げの目的
長時間労働が従業員の健康に与える悪影響については広く知られるところになっており、2018年の働き方改革関連法が労働時間の上限規制を設定するという重要な改正をしたことについて記憶に新しい方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げも、特に長い時間外労働を抑制して従業員の健康を確保する観点から2008年法改正により行われ、大企業については2010年4月から施行されていました。
中小企業については、必ずしも経営体力が強くなく、割増賃金率引き上げによる経済的負担が大きくなることが考慮され、適用が猶予されていました。しかし、2023年4月から適用されることとなり、企業規模に関わらず全ての企業において、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられることになります。
2 割増率引き上げの具体的内容
(1)月60時間を超える時間外労働への割増率が50%以上にUP
時間外労働に対しては、原則として25%以上の率で計算した割増賃金を支払うこととされていますが(労基法37条1項本文)、1か月の起算日からの時間外労働が累計60時間を超えた時点から、50%上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条1項但書)。
企業におかれては、割増賃金率の変更について、就業規則の改訂作業も忘れずに行ってください。
(2)他の割増賃金との関係
深夜(22時~5時)の時間帯に、月60時間を超える時間外労働をさせた場合には、合計75%以上(深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上)の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
法定休日の労働時間は、1か月60時間を超える時間外労働の計算に含まれませんので、法定休日に労働をさせた場合は、35%以上の率で計算した割増賃金を支払います。なお、法定休日以外の休日に行った時間外労働は、1か月60時間を超える時間外労働の計算に含める必要があります。
例:前提 ・1か月の起算日は毎月1日、法定休日は日曜日
・時間外労働の割増賃金率 60時間以下…25%、60時間超…50%
・カレンダー中○内の数字は、時間外労働時間数
(出所:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。」2022年4月)
3 割増賃金率引き上げ分の割増賃金支払いに代わる有給休暇(代替休暇)
(1)代替休暇とは
月60時間を超える時間外労働について、割増賃金率引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、労使協定を締結することにより、有給休暇を付与することもできます。これにより、臨時的な特別の事情によってやむを得ず特に長い時間外労働をすることとなった従業員が、休息の機会を得やすくなります。
なお、代替休暇の制度は、各従業員が自ら取得するか否かを決定できるものであり、代替休暇の取得を従業員に対し義務付けるものではないことにご注意ください。
(2)労使協定の締結と就業規則への規定
代替休暇の制度を設けるには、次の①~④の事項を定めた労使協定を締結する必要があります。(労働基準監督署への届出は不要です。)また、「休暇」(労基法89条1項1号)に関することですので、就業規則にもその内容を定めてください。
①代替休暇の時間数の具体的な算定方法
次のように具体的な算定方法を規定します。
例:換算率が25%(50%-25%)で1か月の時間外労働時間数が96時間だった場合、代替休暇の時間数は、(96時間-60時間)×25%=9時間 となります。
②代替休暇の単位
「1日」「半日」「1日または半日」のいずれかで与えることとされています。
半日は、原則として1日の所定労働時間の半分のことですが、労使協定で例えば「午前の3時間半・午後の4時間半」をそれぞれ半日と定めることも可能です。
③代替休暇を与えることができる期間
長時間労働をした従業員が近接した時期に休息できることを目的とする休暇ですので、時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間を定めてください。
期間が1か月を超える場合、次の例のように、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を合算して取得することもできます。
例:4月に6時間分、5月に2時間分の代替休暇に相当する時間外労働を行った場合
(1日の所定労働時間が8時間、代替休暇の取得期間を時間外労働を行った月の末日の翌日から2か月としている場合)
(出所:厚生労働省「改正労働基準法のあらまし」2009年10月)
④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
従業員が代替休暇を取得しない場合には、50%以上の率の割増賃金を支払わなければなりません。ですので、従業員が代替休暇を取得するか否かの決定方法(意向確認の手続)や、取得しなかった場合の割増賃金の支払日について、トラブル防止の観点から明確に規定してください。
4 最後に
今年4月から、企業規模に関係なく、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられることになります。これまで適用が猶予されてきた中小企業で対応はこれからという会社においては、就業規則の改訂や、代替休暇制度を設けるか否かの検討など、適用開始までにご準備いただければと思います。
以上