NFTに関する税務上の取扱いについて

著者等

瀧谷 耕二

出版・掲載

TLOメールマガジン

業務分野

タックスプランニング 税務相談

詳細情報

令和5年1月13日に国税庁から「NFTに関する税務上の取扱いについて(情報)」(以下「本件情報」といいます。)が公表されました。令和4年3月に自民党の「Web3PT」から公表された「NFTホワイトペーパー(案)」において、国境を跨ぐNFT取引が行われた場合における課税関係の整理が必要であると指摘されていましたが、本件情報では、国境を跨ぐNFT取引が行われた場合の源泉所得税や消費税の取扱いについても明らかにされています。もっとも、一口にNFT取引といってもその実態は様々であるのに対して、本件情報で明らかにされた取扱いは、かなり限定された取引に関するものですので、具体的なNFT取引における源泉所得税や消費税の取扱いについては、本件情報を参考にしつつ、個別具体的に検討をしていくことが必要となります。

1 NFT取引に係る源泉所得税の取扱いについて

(1) 本件情報は、問10において、NFT取引に係る源泉所得税について、以下のような取扱いになることを明らかにしています。

①非居住者であるデジタルアートの制作者から当該デジタルアートが紐づけられたNFTを購入することによって当該デジタルアートの複製や公衆送信等の利用許諾を受けることになる場合には、当該NFTの購入代価は、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料」(所得税法161条1項11号ロ)に該当することになるため、原則として、その支払の際に所得税を源泉徴収する必要がある。

②当該NFTを購入したのが「給与所得者(日本で事業等の業務を行っておらず、給与の支払もしていない個人)」である場合には、当該NFTの購入代価の支払の際に所得税を源泉徴収する必要はない。

③当該NFTを購入したのが、「給与所得者(日本で事業等の業務を行っておらず、給与の支払もしていない個人)」ではない場合でも、デジタルアートの利用許諾の利用許諾の対価部分を区分することが困難であり、かつ、その対価部分が極めて少額であると認められる場合には、そのNFTの購入の代価の支払の際に所得税の源泉徴収をする必要はない。

(2) しかし、上記の取扱いは、日本の所得税法だけが適用されることを前提としたものであって、租税条約が適用されることを想定したものではありませんので、租税条約によって取扱いが異なることになる可能性があることには留意が必要です。

例えば、日本の所得税法では、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料」であっても、国内において業務を行う者から受けるものでない場合には、国内源泉所得に該当しないこととされています(所得税法161条1項11号)ので、NFTを購入したのが「給与所得者(日本で事業等の業務を行っておらず、給与の支払もしていない個人)」であれば、当該NFTの購入代価の支払の際に所得税を源泉徴収する必要はないことになるのですが、租税条約では、著作権等の使用料の支払者が居住者である場合には、支払者が国内において業務を行う者であるかどうかにかかわらず、国内源泉所得に該当することとされていることも多く、そのような場合には、NFTを購入したのが「給与所得者(日本で事業等の業務を行っておらず、給与の支払もしていない個人)」であったとしても、購入代価の支払の際に所得税を源泉徴収する必要があることになると考えられます。

(3) また、上記の取扱いは、デジタルアートの制作者から当該デジタルアートが紐づけられたNFTを購入した場合に関するものですので、同じようにデジタルアートが紐づけられたNFTを購入する場合であっても、それがデジタルアートの制作者からではなく、そのNFTを転売する者から購入する場合には、異なる取扱いになると考えられます。

なぜなら、その場合のNFTの購入代価は、デジタルアートに係る著作権の譲渡やその利用許諾の対価ではなく、デジタルアートに係る著作権の利用許諾に係る権利(利用権)の譲渡の対価に該当することになって(下記2(2)参照)、国内源泉所得には該当しないことになると考えられるためです。

(4) さらに、上記の取扱いは、デジタルアートが紐づけられたNFT、いわゆるアートNFTの取引に関するものですが、NFTには、ゲームアイテム、音楽、メタバースの土地、トレーディングカードなど、デジタルアート以外の様々なデジタル資産が紐づけられますので、そのようなNFTの取引に係る源泉所得税の取扱いについては、その取引の性質に応じて個別具体的な検討が必要になるものと考えられます。

2 NFTの取引における消費税の取扱いについて

(1) 本件情報は、問11において、デジタルアートの制作を行う事業者が、自らが制作したデジタルアートを紐づけたNFTを有償で譲渡することによって当該デジタルアートの利用許諾をすることになる取引について、電気通信回線を介して行われる著作物の利用の許諾に係る取引であるから「電気通信利用役務の提供」(消費税法2条1項八の三)に該当することになることを明らかにした上で、そのような取引が国内において行われたものであるかの判定は、取引の相手方の住所等が国内かどうかによって行うべき(消費税法4条3項3号)ことになるとしています。

そのため、上記のような取引については、国内の事業者が行う場合であっても、取引の相手方の住所等が国外にある場合には、国外において行われたものとして、消費税は課されないことになるのに対し、国外の事業者が行う場合であっても、取引の相手方の住所等が国内にある場合には、国内において行われたものとして、消費税が課されることになります。

ただ、NFT取引においては、取引の相手方が匿名であることも多く、取引の相手方の住所等を把握することも困難であることが想定されますので、実務的には、消費税が課されるべき取引であるのか否かをどのように判断すべきであるのかという問題が生じることになります。

(2) また、本件情報は、問12において、上記(1)のような取引によってNFTを購入した者が当該NFTを第三者に転売する取引について、デジタルアートに係る著作権の譲渡やその利用許諾ではなく、デジタルアートに係る著作権の利用許諾に係る権利(利用権)の譲渡であると認められることを明らかにした上で、当該取引が行われる時の資産の所在は明らかでないことから、当該取引が国内において行われたものであるかの判定は、当該取引を行う者の当該取引に係る事業所等の所在地が国内かどうかによって行うべきことになるとしています。

そのため、上記のような取引については、当該取引に係る事業所等が国内にある場合には、国内において行われたものとして、消費税が課されることになります。

(3) なお、上記の取扱いは、いわゆるアートNFTの取引に関するものですが、NFTには、デジタルアート以外の様々なデジタル資産が紐づけられますので、そのようなNFTの取引に係る消費税の取扱いについては、源泉所得税の取扱いと同様に、その取引の性質に応じて個別具体的な検討が必要になるものと考えられます。

以上

関連する論文

瀧谷 耕二の論文

一覧へ