株主総会「電子提供措置」のミニマム解説
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上場会社の株主総会実務では、今年(2023年)の3月1日以後に開催する株主総会から「電子提供措置」をとる必要があります。例年の準備とは異なる手間が発生するので、今年は早めに準備を始める必要があります。電子提供措置に対応するために会社が決めなければならない事項は少なくはありませんが、とりわけ、「株主の手許に何を郵送するか」は、選択肢が多いうえに、議決権行使率への影響もあり得る事項であり、重要です。 |
1.概要
「電子提供措置」とは、ざっくりいえば、従来、株主に郵送していた株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主の閲覧に供することをいいます。ただ、株主の手許に何の書面も届かないと、株主はウェブサイトを見るきっかけすら得られません。そこで、株主総会の日時・場所や目的事項(報告事項や議題)に加え、電子提供措置をとっている旨やウェブアドレスといった、ウェブサイトにアクセスするために必要な情報を記載した「アクセス通知」(※1)を作成し、株主の手許に郵送する必要があります(※2)。
アクセス通知の法定発送期限は、株主総会の日の2週間前ですが、コーポレートガバナンス・コードにより、より早期の発送が求められています(※3)。他方、電子提供措置は、株主総会の日の3週間前またはアクセス通知の発送日のいずれか早い日から開始する必要があります(※4)。
電子提供は、自社のウェブサイトで行われるのが通常と予想されますが、補助的に東証のウェブサイトでも提供する方針の会社も少なくないようです。複数のウェブサイトに掲載すれば、それだけ通信障害で電子提供が中断するリスクが減り、招集手続の瑕疵を防止することができます。
2.株主に郵送する書類とWEBに掲載する書類の区別
ア.会社法の原則
(図1:会社法の原則)
アクセス通知の記載事項、及びウェブサイトに掲載すべき情報(以下「電子提供措置事項」)といいます。)の内容は、概要図1の通りです。電子提供措置事項の範囲は、従来の株主総会招集通知(広義の招集通知)記載事項とほぼ同じです。議決権行使書面の記載事項も電子提供措置事項です。ただ、アクセス通知に記載される「電子提供措置をとっている旨・WEBアドレス等」は、ウェブサイトに記載しても無意味なので電子提供措置事項ではありません。
イ.会社法の例外
(図2:議決権行使書面も郵送)
上記アの原則に対する例外として、アクセス通知と一緒に議決権行使書面を株主に郵送した場合、議決権行使書面に記載した事項の電子提供措置は不要になります(※5)。議決権行使書面には、各株主の氏名・名称や議決権の数を記載する必要があり、これをウェブサイトで開示することには困難が伴います。そこで当面は、この例外に依拠し、議決権行使書面を従来どおり書面で郵送し、電子提供には付さない会社が多いと予想されます。
ウ.全株懇の「一体型アクセス通知」の利用
(図3:一体型アクセス通知(茶色の文字は任意提供事項))
なお全株懇は、電子提供措置に対応した実務のひな形として、「一体型アクセス通知」を公表しています。
後述するとおり、株主は、電子提供措置事項を書面で交付するよう会社に請求することができます(書面交付請求)。この株主に対しては、電子提供措置事項をプリントアウトして、アクセス通知と一緒に郵送します。この際、図1や図2から分かるとおり、アクセス通知と電子提供措置事項の一部は、よく似ているのですが、完全に一致しているわけではないので、どちらかを省略するわけにはゆきません。
全株懇の一体型アクセス通知は、図3のとおり、この「よく似ている部分」を完全に一致させたうえで(Ⓐの部分=「一体型アクセス通知」)、ウェブサイトに掲載するものを、このⒶの部分とそれ以外の部分(Ⓑの部分)に分け、それぞれ別のファイルとして作成する、というアイデアだと思われます。一般の株主にはⒶの部分だけを送り、書面交付請求をした株主には、ⒶとⒷを併せて送ります(Ⓐの部分は、図解の右と左とで完全に同じなので重複して送る必要はありません。)。
なお全株懇のホームページでは、「一体型アクセス通知」のほか、原則型のアクセス通知のひな形も公開されており、いずれも参考になります(※6)。
エ.その他のバリエーション
(図4:株主総会参考書類も郵送(茶色の文字は任意提供事項))
上記アからウのどの方法でも共通して懸念されるのが、「株主の手許に郵送される情報が少なすぎて、議決権行使率が下がるのではないか?」という問題です。アクセス通知、一体型アクセス通知のいずれも、総会の目的事項として「議題」が記載されますが、これは、たとえば取締役の選任との関係でいえば「取締役〇名選任の件」というタイトルだけが記載されるものであり、肝心の議案(取締役候補者の情報)は含まれません。議案は、ウェブサイトに掲載される「株主総会参考書類」に記載されますが、面倒がってウェブを見ない株主が多数いるとすれば、議決権行使書面による議決権行使が減ってしまうかもしれないのです。
そこで、たとえば図4のように、株主総会参考書類も印刷したうえで、アクセス通知等と一緒に、任意に株主に郵送する方法も考えられます(なお、この場合でも、電子提供措置事項から株主総会参考書類を省略することはできないので注意が必要です。株主に郵送することで電子提供を省略できるのは、上述した議決権行使書面記載事項などごく限られた事項です)。
ほかにも、電子提供措置事項の要約版を作成して郵送する方法や、全ての株主に電子提供措置事項の全部を印刷して郵送してしまう方法(フルセットデリバリー)を検討している会社も少なくないようです。ただ、紙の無駄を省くための電子提供措置を実施するに際し、大量の紙を株主に送るのは、やや過剰という気もします。
3.書面交付請求
ウェブサイトへのアクセスができない株主への配慮として、希望する株主に対し、電子提供措置事項をプリントアウトした書面を交付する仕組みが書面交付請求制度です。
書面の交付を希望する株主は、当該株主総会の基準日(6月総会の会社の場合、通常、定款により3月31日が基準日とされています。)までに、会社に対してその旨の請求をする必要があります(※7)。
交付する書面は、基本的には電子提供措置事項の全部ですが、定款の定めに基づき、召集取締役会で決議し、アクセス通知に所定の記載をすることで、電子提供措置事項の一部を省略したものを交付することができます(※8)。
しかし、この意味での記載の省略を行わないとすれば、電子提供措置事項をプリントアウトして丸ごと当該株主に郵送すればよいわけですが、省略をする場合、別途、省略後の書面を作成することになります。したがって、ミニマムな対応としては、かかる記載の省略の決議はあえてしないという方法も考えらます。
4.総会当日の運営
株主総会当日の運営に関しては、大きな変更はありません。ただ、シナリオ上「お手許の招集ご通知の〇ページにご記載のとおり」というセリフは修正が必要です。「当社ウェブサイトに掲載のとおり」と修正することも考えられますが、やや不親切な感じがします。そこで、スクリーン上に必要な情報を投影して「前方のスクリーンにありますとおり」とするか、会場で電子提供措置事項の印刷物を配布したうえで、従来どおり「お手許の招集ご通知の〇ページにご記載のとおり」で進める方法などが考えられます。
以上
引用:
※1 法文上は「招集の通知」ですが、従前の招集通知との混同を避けるためアクセス通知と呼びます。
※2 会社法299条、325条の4第1項2項
※3 コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2②
※4 会社法325条の3第1項
※5 会社法325条の3第2項
※6 全株懇のホームページ
https://www.kabukon.tokyo/activity/data/study/study_2022_07.pdf
※7 会社法325条の5第2項括弧書
※8 会社法325の5第3項、298条1項5号、会社規則63条3号ト
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