不動産取引に必須の印紙税の知識(21)契約金額③

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

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印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(21)
―契約金額③―

1 今回のテーマ
今回も、契約金額について取り上げます。まずは前回までのポイントについて復習をしたいと思います。 

2 前回までの復習
 前回までのポイントは以下の点になります。

 文書中に何らかの金額が記載されていたとしても、その金額は必ずしも「契約金額」に当たるとは限りません。例えば、土地賃貸借契約書において賃料や敷金の金額が記載されていたとしても、これらは第1号の2文書の契約金額には当たりません。

 どのような金額が「契約金額」に当たるのかは課税文書ごとに決まっています。例えば、第1号の1文書は基本的には譲渡の対価となる金額、第1号の3文書は消費貸借の金額、第2号文書では請負金額がこれに当たります。そのため、まずはその文書が何号文書に当たるのかを判断する必要があります。

 このように契約金額の意味は課税文書ごとに異なりますので、まずはその文書がどのような取引を定めており、どの課税文書に当たるのかを確認することが必要になります。

 3 直接証明目的
 ここまで、契約金額について判断をする際には、①その文書がどのような契約(取引)を定めているか確認する、②①をもとにその文書が何号文書に当たるのかを判断する、③その課税文書の「契約金額」に当たるのかを判断する、というステップで進めていくことを説明してきました。今回は、4つの目のステップとして、「その文書はその契約金額を直接証明するために作成されたといえるか」について解説をしたいと思います。文書中に、一見すると「契約金額」に当たるような金額が記載されていたとしても、その文書がその金額を直接証明するために作成されたといえない場合には、その金額は、「契約金額」には当たらないことになります。

抽象的な説明では分かりづらいかと思いますので、事例を用いて説明します。

 図1 工事請負変更契約書

工事請負変更契約書

  甲と乙は、下記の「工事請負契約書」の第3条を、次のとおり変更することについて合意します。

  1 契約日    平成30年9月1日
 2 請負金額   3000万円
 3 変更する事項

  ○ 変更前
    第3条(引渡期日)
    この契約に基づき完成した物の引渡しは、平成30年12月1日とする。

  ○ 変更後
    第3条(引渡期日)
    
この契約に基づき完成した物の引渡しは、平成31年3月1日とする。 

 平成30年10月1日

                          甲 印

                          乙 印

  上記の①~③のステップに基づいて判断をすると、この文書は請負契約について定めており(①)、第2号文書に当たる(②)、第2号文書の「契約金額」は請負金額であるため、請負金額の3000万円が「契約金額」に当たる、となるようにも思われます。しかし、甲と乙が平成30年9月1日付工事請負契約書で請負金額を3000万円とすることを合意している場合には、甲と乙は、あくまでも同契約書第3条の引渡期日を変更するために、この工事請負変更契約書を作成したといえます。すなわち、甲と乙は、この工事請負契約の請負金額が3000万円であることを証明するために、この工事請負変更契約書を作成したわけではありません。そのため、この工事請負変更契約書には、形式的には請負金額として3000万円の記載がされていますが、これは「契約金額」には当たらないことになります。

 このように、文書中に、一見すると「契約金額」に当たるような金額が記載されていたとしても、その文書がその金額を直接証明するために作成されたといえない場合には、「契約金額」には当たらないことになります。

 図2 借入金の利率を変更する覚書 

覚書

  甲と乙は、平成30年9月1日に締結した金銭消費貸借契約書(以下、「原契約書」という。)について、以下の点を確認した。 

第1条 原契約書に定めた利率年3%を平成31年3月1日より利率年4%として利息を計算する。

第2条 本日現在の貸借金額の残金は、350万円である。

第3条 前各条以外の条項については、原契約書の通りとする。 

平成30年12月1日

                 甲 印 

                        乙 印 

  この文書は金銭消費貸借契約を定めており(①)、第1号の3文書に当たります(②)。そして、第1号の3文書の「契約金額」は、消費貸借金額ですので、消費貸借金額の残金の350万円が「契約金額」に当たるようにも思われます(③)。

 しかし、甲と乙が原契約書において、既に消費貸借金額について合意している場合には、甲と乙は消費貸借金額の残金について改めて合意するためにこの覚書を作成したとはいえません。甲と乙は、あくまで利率を変更するためにこの覚書を作成したといえます。したがって、この消費貸借金額の残金の350万円は「契約金額」には当たりません。この覚書は、記載金額のない第1号の3文書に当たりますので、印紙は200円となります。

 なお、稀なケースではあるかと思いますが、例えば、甲と乙が平成30年9月1日の金銭消費貸借契約を口頭で交わすにとどまっていたり、契約書は作成したものの消費貸借金額の記載をしなかった場合には、この覚書の他には、消費貸借金額について証明することができる文書が存在しない以上、甲と乙は、この覚書によって消費貸借金額の残金が350万円であることを確認し、合意したといえます。したがって、このような場合には、この350万円は、「契約金額」に当たることになります。

 4 「受取金額」の直接証明目的
 「契約金額」というテーマからは少し外れますが、「その文書がその金額を直接証明するために作成されたといえない場合には、その金額は、「契約金額」には当たらない」という点は、第17号文書などで問題となる「受取金額」でも同じことがいえます。すなわち、ある文書に形式的には受領した金額が記載されていたとしても、その文書がその金額を直接証明するために作成されたといえない場合には、その金額は「受取金額」には当たらないことになります。

 例えば、取引先に対して代金の支払いを請求する際に作成する請求書の中には、請求金額を算定するために取引先からの過去の入金の事実を記載しているものがあります。印紙税実務上は、口座振込等の方法によって金銭の支払を受けた場合でも、金銭を受領したものと扱われますから、入金の事実が記載されていれば、金銭を受領したものと扱われます。したがって、請求書の中に過去の入金の事実が記載されている場合には、基本的には、その金額は「受取金額」となります。

 しかし、文書の表題が単に「請求書」であり、かつ、入金された金額について「正に領収しました。」といった文言がない場合には、過去の入金の事実はあくまで今回の請求金額を算定するために記載しているにすぎないということができます。すなわち、請求書の発行者は、この請求書をあくまで代金請求のために作成したのであって、過去の入金額を証明するために作成したのではないといえます。したがって、この場合には、入金された金額は「受取金額」には当たりません。

 5 まとめ
 「契約金額」について、3回に分けて解説を行ってきました。まずは、「文書中に何らかの金額が記載されているからといって、直ちに「契約金額」とは判断してはいけない」という点を理解していただければと思います。

 「契約金額」については、文書中に複数の金額が記載されている場合の金額の計算方法など、他にも細かなルールが存在します。興味のある方は、印紙税法基本通達第24条から第35条を確認してみてください。具体例も挙がっていますので、これまでの本連載で取り上げた内容を復習するという点からも有用だと思います。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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