不動産取引に必須の印紙税の知識(20)契約金額②

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

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印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(20) 
―契約金額②― 

1 今回のテーマ 
 今回も、契約金額について取り上げます。いくつかの課税文書では印紙代は契約金額によって異なりますし、契約金額の多寡によっては非課税文書として印紙代がかからない場合もあります。このように契約金額は印紙代そのものに影響を与える点で非常に重要な項目であるといえます。そこで、まずは前回のポイントについて復習をしたいと思います。 

 2 前回の復習 
  前回のポイントは以下の点になります。 

 文書中に何らかの金額が記載されていたとしても、その金額は必ずしも「契約金額」に当たるとは限りません。例えば、土地賃貸借契約書において賃料や敷金の金額が記載されていたとしても、これらは第1号の2文書の契約金額には当たりません。

 どのような金額が「契約金額」に当たるのかは課税文書ごとに決まっています。例えば、第1号の1文書は基本的には譲渡の対価となる金額、第1号の3文書は消費貸借の金額、第2号文書では請負金額がこれに当たります。

 このように契約金額の意味は契約(取引)内容によって変わります。そのため、まずはその文書がどのような取引を定めており、どの課税文書に当たるのかを確認することが必要になります。  

3 事例検討(保証金の取扱い) 
 不動産の賃貸借契約を交わす際に賃借人から賃貸人に対して「保証金」という名目で金銭が交付されることがありますが、同じ「保証金」という名前であっても、賃貸借の目的物や返還の有無、返還方法によって結論は異なります。この点をいくつかの事例で確認しましょう(事例はあえて簡略化しています。)。 

事例1

土地賃貸借契約書

 第1条 甲は、その所有する土地Aを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。 

第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了後も乙に対してこの保証金を返還しない。 

平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

  結論:この文書は第1号の2文書に当たります。第1号の2文書の契約金額とは、賃借権の設定または譲渡の対価たる金額ですが、契約に際して相手方当事者に交付され、後日返還されることが予定されていない金額は賃借権の設定または譲渡の対価たる金額に該当し、契約金額になります。この事例1の保証金は契約の際に賃借人から賃貸人に交付され、しかも、後日、賃貸人から賃借人に返還されることが予定されていないため、契約金額に当たります。 

 事例2 

土地賃貸借契約書

 第1条 甲は、その所有する土地Aを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。

 第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了の際、これを乙に対して返還する。

平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

 結論:この文書は第1号の2文書に当たります。しかし、保証金は第1号の2文書の契約金額には当たりません。この保証金は契約の際に賃貸人から賃借人に交付されていますが、後日、賃貸人から賃借人に返還されることが予定されているからです。 

事例3 

土地賃貸借契約書

第1条 甲は、その所有する土地Aを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。

第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了後、1ヶ月あたり15万円ずつ、10回に分けてこれを返還する。 

平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

 結論:この文書は第1号の2文書に当たります。保証金は、事例2とは返還の方法が異なりますが、後日、賃貸人から賃借人に返還されることが予定されている点は変わらないため、第1号の2文書の契約金額には当たりません。 

 事例4 

建物賃貸借契約書

第1条 甲は、その所有する建物Bを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。

第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了後も乙に対してこの保証金を返還しない。

平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

 結論:この文書は不課税文書です。第1号の2文書に当たるのは「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」であり、建物の賃貸借契約書はこれに当たりません。不課税文書ですから、当然、保証金も契約金額には当たりません。 

 事例5 

建物賃貸借契約書

 第1条 甲は、その所有する建物Bを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。

 第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了の際、これを乙に対して返還する。

 平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

 結論:事例5は事例4とは異なり、保証金は返還されることになっていますが、やはり不課税文書にすぎませんので、保証金は契約金額には当たりません。 

 事例6 

建物賃貸借契約書 

第1条 甲は、その所有する建物Bを乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。

 第2条 乙は、甲に対し保証金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。なお、甲は、賃貸借契約の終了後、1ヶ月あたり15万円ずつ、10回に分けてこれを返還する。 

平成31年3月1日

甲      印  

乙      印  

 結論:この文書は第1号の3文書に当たります。また、保証金は第1号の3文書の契約金額に当たります。 

 事例6は事例5と同様、不課税文書であり、保証金が契約金額に当たる余地もないように思えますが、事例5では保証金が契約終了時に返還されることになっているのに対し、事例6では契約終了後、一定の期間をかけて返還されることになっている点が異なります。保証金を賃貸借契約終了時に返還するのではなく、その返還を一定期間留保する場合には、この保証金は単に賃料を担保する目的で交付されたとは言い切れなくなり、消費貸借契約の目的物となります。したがって、事例6の文書は第1号の3文書に当たり、保証金は第1号の3文書の契約金額に当たります。  

 以上の事例1~6の結論を表にまとめると次のようになります。 

 

土地の賃貸借 

建物の賃貸借 

(保証金を) 

返還しない 

第1号の2文書 

不課税文書 

保証金は第1号の2文書の契約金額 

保証金は何らかの契約金額ではない 

契約終了時に返還 

第1号の2文書 

不課税文書 

保証金は第1号の2文書の契約金額ではない 

保証金は何らかの契約金額ではない 

契約終了後一定期間かけて返還 

第1号の2文書 

第1号の3文書 

保証金は第1号の2文書の契約金額ではない 

保証金は第1号の3文書の契約金額 

4 まとめ 
 このように、同じ「保証金」という名目で交付される金銭であっても「契約金額」に当たるかどうかは名称だけでは判断できないことが分かります。この点は、文書の名称だけからでは、その文書が「契約書」に当たるかどうかを判断できないことと共通します。印紙税の判断は、文書に記載された文言に基づいて行われますから、どのような文言が使われているのかはもちろん重要ですが、それと同時にその文書がどのようなことを定めているのかといった内容面にも着目することが必要になります。 

 次回以降も、契約金額について、誤りやすい点をあげながら詳しく説明していきます。ご期待ください。 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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