不動産取引に必須の印紙税の知識(19)契約金額①
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不動産取引に必須の印紙税の知識(19)
―契約金額①―
1 今回のテーマ
今回は、契約金額について取り上げます。不動産取引において作成される第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)や第2号文書(請負に関する契約書)など、いくつかの課税文書については契約金額によって印紙代の金額が異なります。また、文書によっては契約金額が一定額以下の場合には非課税文書として印紙代がかからない場合もあります。このように契約金額は、印紙代そのものに影響を与える点で非常に重要な項目ですので、何回かに分けて解説を行いたいと思います。
2 契約金額の意味
契約金額の意味を考えることの重要性について確認するため、次の具体例から解説を行います。次の文書の契約金額はいくらになるでしょうか。
例1
土地賃貸借契約書 第1条 甲は、その所有する下記表示の土地を乙に賃貸し、乙はこれを賃借し所定の賃料を支払うことを約した。 第2条 賃料は、1か月あたり金50万円(別途消費税)とし、乙は毎月末限り、甲の指定する口座に振り込んでこれを支払う。 第3条 乙は、甲に対し敷金として金150万円を平成31年2月25日までに預け入れなければならない。 第4条 賃貸借契約の期間は、この契約締結の日から1年間とする。 平成31年3月1日 |
この文書は、土地を有償で賃貸することを約する文書といえますので、第1号の2文書(地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書)に当たります。この文書には賃料として1カ月あたり50万円(1年間で600万円)、敷金として150万円という金額が記載されていますので、これらの金額が契約金額に当たるようにも思えます。
しかし、これらの金額はいずれも契約金額には当たりません。第1号の2文書の契約金額とは、地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡の対価である金額をいいますが、賃料は土地の使用収益の対価にすぎません。また、敷金は賃貸借契約終了後に賃借人に返還がされますので、「対価」とはいえません。したがって、いずれの金額も契約金額には当たりません。そのため、この土地賃貸借契約書には契約金額の記載はないことになりますので、印紙代は200円となります。
なお、このように賃料は契約金額には当たりませんが、第1号の2文書の重要な事項(権利の使用料)には当たりますので、この点も注意が必要です。
3 第1号文書と第2号文書の契約金額
このように文書中に何らかの金額が記載されていたとしても、その金額は必ずしも「契約金額」に当たるとは限りません。正しい印紙税額を求めるためには、記載された金額が「契約金額」に当たるのかを1つずつ確認する必要があります。不動産取引において頻繁に作成される第1号文書、第2号文書の「契約金額」は次の通りです。
(1)第1号の1文書(譲渡の方法によって契約金額の意味が異なります。) *贈与契約においては譲渡の対価たる金額はありませんので、契約金額はないものとして取り扱われます。 (2)第1号の2文書 (3)第1号の3文書 (4)第1号の4文書 (5)第2号文書 |
4 事例検討
(1)土地の交換
土地交換契約書 甲と乙は、土地の交換について次のとおり契約する。 第1条 交換する土地は、 第2条 甲の所有する土地の価格を1億円とし、乙の所有する土地の価格を1億2000万円とする。 第3条 甲は乙に対し、交換する土地の差額2000万円を支払う。 平成31年2月25日 |
この文書には、甲と乙とが各々所有する土地を交換することに合意したことが記載されています。交換も「譲渡」にあたりますので、この文書は第1号の1文書(不動産の譲渡等に関する契約書)に当たります。
そして、交換契約の場合の契約金額は交換金額となりますが、上記(1)②のとおり、交換契約書に交換対象物の双方の価額が記載されているときはいずれか高い方の金額が交換金額となります。したがって、この文書の契約金額は1億2000万円となります。
印紙代は本来であれば10万円となりますが、租税特別措置法では不動産の譲渡に関する契約書について軽減税率を定めています。この文書にはこの軽減税率の適用があるため、印紙代は6万円となります。
ところが仮に、この文書に交換対象物の双方の価額が記載されておらず、交換差金の2000万円しか記載されていない場合には、契約金額は2000万円となります。そして、印紙代は上記と同様に軽減税率の適用により1万円となります。このように取引内容が同一であったとしてもその文書への記載方法によって印紙代が大きく変わることになります。
(2)借用書
借用書 乙殿 甲は、乙から金150万円を借用致しました。 平成30年2月25日 |
この文書では、甲が乙との間で金銭消費貸借契約を交わしたことと、150万円という金銭を受領したことが記載されています。そのため、この文書は第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に当たるとともに第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)にも当たりますが、所属の決定により、第1号の3文書となります。
第1号の3文書の契約金額は消費貸借金額です。この文書の利息金額は、150万円×3%により、1年間で4万5000円と計算することができますが、利息金額は上記(3)のとおり、消費貸借金額には含まれません。したがって、契約金額は150万円となりますので、印紙代は2000円となります。
5 まとめ
ここまで解説してきた通り、契約金額の意味は契約(取引)内容によって大きく変わりますので、まずはその文書がどのような契約(取引)を定めているのかを確認することが必要になります。そして、次に、文書に記載されている金額が契約金額に当たるかどうかを確認することになります。このように、単純にその文書に記載されている金額を契約金額と考えることはできませんので、この点、注意が必要です。次回以降も、契約金額について、誤りやすい点をあげながら詳しく説明していきます。ご期待ください。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則
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