不動産取引に必須の印紙税の知識(17)ー地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書ー
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不動産取引に必須の印紙税の知識(17)
―地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書―
沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和
[ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp)
1 まえがき
今回は、地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書(第1号の2文書)について解説をしていきます。第1号の2文書は不動産業界ではよく作成する契約書になりますので、この機会に知識を深めていただけたらと思います。
2 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書(第1号の2文書)
「地上権」とは、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利のことで、民法第265条、第269条の2に規定されています。
「土地の賃借権」とは、民法第601条に規定する賃貸借契約に基づき賃借人が土地を使用収益できる権利をいい、借地借家法第2条に規定する借地権に限られません。すなわち、建物所有以外を目的とする土地の賃借権であっても構いません。
第1号の2文書では「土地」の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書とされているので、第1号の1文書の「不動産」の譲渡に関する契約書とは異なり、対象が不動産のうち「土地」に限定されることには注意が必要です。したがって、建物の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書は第1号の2文書には該当しません。
また、第1号の2文書では、「賃借権」の設定又は譲渡に関する契約書とされているため、使用賃借権の設定又は譲渡に関する契約書は第1号の2文書には該当しませんし、他の課税文書にも該当しません。賃借権か使用賃借権かは対価の支払を伴うかどうかによって区別されます。なお、ある土地に関する使用権が地上権に該当するのか土地の賃借権又は使用貸借権に該当するのか明らかでない場合には、実務上、土地の賃借権又は使用貸借権に該当するものとして取り扱います。
3 第1号の2文書の記載金額
では、ある文書が第1号の2文書に該当するとして、その印紙税額を算定する際の基礎となる記載金額はどのように考えればよいでしょうか。
第1号の2文書の記載金額とは、契約金額としてその文書に記載されている金額で、その文書において契約の成立等に関し直接証明の目的となっている金額をいいます。第1号の2文書は、その記載された契約金額によって税率が異なり、その金額が1万円未満のものは非課税となります。
以下、事例を使って具体的に検討していきます。次の土地賃貸借契約書の記載金額はいくらで、それに基づく印紙税額はいくらになるでしょうか。
図1 土地賃貸借契約書
土地賃貸借契約書 賃貸人甲と賃借人乙は、土地の賃貸借をするため次のとおり賃貸借契約を締結する。 第1条 賃貸人甲は、甲の所有する下記土地を賃借人乙に賃貸し、乙はこれを借り受け、 第2条 賃貸料は、月額30万円とする。 第3条 賃借人乙は、賃貸人甲に対して敷金として60万円を預け入れなければならない。 第4条 賃借人乙は、賃貸人甲に対して保証金として60万円を支払わなければならない。 (中略) 本契約の証として本書3通を作成し、各当事者ならびに連帯保証人丙が記名押印の上、各自その1通を所持する。 平成31年1月15日 賃貸人 甲 印 |
図1の文書は、賃貸人甲と賃借人乙の間で第1条に定める甲所有の土地について乙に賃貸する旨を約していますので、土地の賃借権の設定に関する契約書(第1号の2文書)に該当します。
第1号の2文書の契約金額とは、土地の賃借権の設定又は譲渡の対価である金額をいいます。具体的には、賃貸料を除き、権利金その他名称のいかんを問わず、契約に際して相手方当事者に交付し、後日返還されることが予定されていない金額をいいます。したがって、後日返還されることが予定されている保証金、敷金等は契約金額には該当しません。また、賃貸料は契約成立後における土地の使用収益上の対価であって、土地の賃借権の設定又は譲渡の対価ではないため、第1号の2文書の契約金額には該当しません。
図1の文書では賃貸料、敷金、保証金に関する金額の記載がありますが、上記のとおり賃貸料と返還されることが予定されている敷金は土地の賃借権の設定の対価にはあたりません。他方、保証金は図1では返還されることが予定されていないため土地の賃借権の設定の対価となります。
したがって、図1の文書に記載されている契約金額は保証金60万円のみで、印紙税額は1通につき1,000円となります。
次の事例は、既に成立している土地賃貸借契約の賃貸料を変更することを内容とする変更契約書です。この文書の記載金額と印紙税額について検討します。
図2 土地賃貸借変更契約書
土地賃貸借変更契約書 賃貸人甲と賃借人乙は、平成30年2月1日に締結した土地賃貸借契約書の内容を、以下のとおり変更する。 第1条 賃貸料を月額30万円から25万円に変更する。 第2条 第1条の賃貸料の改定は平成31年2月1日から実施する。 (中略) 本契約の証として本書2通を作成し、当事者記名押印の上、各自1通を所持する。 平成31年1月25日 賃貸人 甲 印 |
図2の文書は、既に成立している土地賃貸借契約の一部を変更する変更契約書ですが、変更契約書のうち、印紙税法で定められている重要な事項を変更するもののみが課税文書に該当することになります。第1号の2文書のうち、地上権又は土地の賃借権の設定に関する契約書の重要な事項は下記のとおりです。
第1号の2文書のうち、地上権又は土地の賃借権の設定に関する契約書の重要な事項 (1)目的物又は被担保債権の内容 |
図2の文書は月額賃貸料を変更する文書ですが、これは上記の重要な事項の(4)権利の使用料にあたるため重要な事項を変更する文書となり、第1号の2文書に該当します。
ただし、賃貸料は、賃借権の設定又は譲渡の対価たる金額とならないため、第1号の2文書の契約金額にはなりません。したがって、この文書は、記載金額のない第1号の2文書にあたるため、印紙税額は200円になります。
4 まとめ
今回は、不動産業では必須の第1号の2文書について解説しました。日頃から作成する文書でも印紙税の観点から改めて見直すと新たな発見があったのではないでしょうか。次回以降もぜひご期待ください。
以上
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