「働き方改革につながる!精神障害者雇用」第10回 大学での支援
著者等 | |
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出版・掲載 |
労働新聞 3140号 |
業務分野 |
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詳細情報
【第10回 大学での支援】
急増する障害学生
インターンシップ実施を
◇難関大も例外でない
大学に入学してから自分に発達障害の特性があることに気付く学生が増えている。各人の自主的な選択に任される大学での学びや生活は、それらが、分かりやすく示されていた中学・高校時代とは大きく異なるからである。
大学では、履修登録は専攻する学部の卒業に必須か否か、単位を取りやすいかといった様ざまな条件を考慮し、自分で時間割を組まなければならない。提出物の期限を含め、時間管理は自ら行わなければならない。暗黙のルールも含む自分にとって必要な情報は、複数のところから様ざまな方法で発せられるから、友人のネットワークも使って情報を集め、取捨選択しなければならない。教室での指定席や決められた居場所はなく、友人や教員・大学スタッフとの人間関係も自ら作らなければならない。
就職後の仕事や職場でも必要になるこれらの行動は、発達障害の特性がある学生にとって苦手であることが多い。自分が何に困っているかに気付けずに、どこに相談したら良いかも分からず、卒業や就職にたどり着けないことも少なくない。
独立行政法人日本学生支援機構の「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」によれば、大学側が把握している精神・発達障害がある大学生の人数は急増しており、平成28年度には、全国の大学等の高等教育機関が把握している障害を持つ大学生等のうち、精神障害が約25%(6775人)、発達障害が約15%(4150人)を占めている。平成28年4月の障害者差別解消法施行を受け、全国の大学等で障害学生支援の体制作りが進められつつあるので、これまで気付かれずに埋もれていた精神障害や発達障害の特性を持つ学生が見出されるようになったものと思われる。
もっとも、自分自身でも障害の認識や受容が難しい発達障害の特性は、実際には、もっと多くの学生が抱えている可能性がある。難関大学においても例外ではない。むしろ、そうであるがゆえに、本人も周囲も障害への気付きが遅れることがあるだろう。ある大学で学生支援に長年携わっている方によれば、診断は受けていないが発達障害が疑われる学生は、学生全体の1割前後に及ぶ実感がある、とのことである。
就職活動は、発達障害の特性がある学生にとって厳しいものになることが多い。そもそも情報に疎くて時期を逸してしまったり、卒業論文などと並行して進めることが難しかったり、自分に向いていない業種や職種にこだわってしまったり、面接やグループワークがうまくできなかったり……。平成28年の統計では、一般学生の74.7%が就職したところ、障害のある学生全体では52.9%、発達障害のある学生では、増加傾向とはいえ、未だ45.5%にとどまっている。
今後、発達障害のある学生の就職は増えていくことが予想されるが、早期離職を防ぐためには、働き続けるために必要な準備を大学時代から行っておくことが重要である。
◇企業の協力も不可欠
発達障害のある学生が、大学での学びと生活に適応し、自らの特性を理解して自分に合う仕事に就き、自立した社会生活を営んでいけるようにするためには、大学時代からの支援が有効である。そうした取組みは、一部の先駆的な大学、医療機関、支援機関が始めているに過ぎないが、今後そのような支援が全国の大学に広がり、効果を上げていくためには、企業側の協力も不可欠である。
先駆的な取組みの一つとして、明星大学の「STARTプログラム」がある。同大学では、平成20年から、大学生活にうまく適応できずに困っている在籍学生に向けてSTARTプログラムを開始した。
STARTプログラムでは、おおむね週に1度、90分間のコマで、スキルトレーニングを提供している。①時間管理(自分自身の予定を把握し、予定を立てて行動すること)、②体調管理(体調不良に陥らないための予防、体調不良に陥った場合の対処方法など)、③ストレスコントロール(ストレスを溜めないための方法や溜まった時の対処方法)、④マナー(時と場合に合わせた挨拶、身だしなみ、報告・連絡・相談)、⑤ルール(人や社会とかかわり合いを続けるため必要なルール)といった領域の基本的なスキルについて、臨床心理士や発達障害の特性を理解している専門スタッフの指導のもと、同じくらいの状態にある小人数のグループ単位でトレーニングするのである。
このトレーニングに参加している学生は、大学生活にうまく適応しており、二次障害で苦しむことが少ないという成果を上げている。
さらに、平成27年度からは、大学の長期休暇を利用した、インターンシップが採り入れられた。プログラムの目標も、大学への適応だけではなく、自分に適した進路の選択、さらにその先の、就労・定着を見据えた支援へと広がっている。インターンシップ先は、それぞれの学生の状態に合わせて、就労継続支援A型事業所、就労移行支援事業所、特例子会社や一般企業から選んでいる。
インターンシップでは、評価とフィードバックのプロセスをしっかり回している。すなわち、大学スタッフ、学生、インターン先スタッフの三者で、事前に評価項目を共有した上、実習中は体験を記録して具体的な事実を共有し、最終日には、三者で振返りを行って自己評価と他者評価をすり合わせ、残された課題を整理し、次の目標を立てる。
こうして、学生は、体験を通じて自己理解を深め、自分の得意と苦手、自分で努力できることと自分に必要な配慮を整理し、相手に伝えることができるようになる。仕事の具体的なイメージも持つことができるようになり、進路や仕事を主体的に選択することもできるようになる。
STARTプログラムは、他大学の学生からも受講希望の声が寄せられたため、明星大学が協力し、東京YMCAでも開講されることになった。
発達障害の特性がある学生は、サークルやアルバイトの経験が乏しいため、他者の評価を通じて自分を客観的に認識したり、働くことを具体的にイメージしたりする機会が不足し、自分に合わない進路を選んでしまいがちである。
一般学生のインターンシップを実施している企業は多いが、今後は、障害学生のインターンシップを受け入れることも検討してもらいたい。
弁護士 小島 健一
初出:労働新聞3140号・平成29年12月11日版