不動産取引に必須の印紙税の知識(3)申込書等の扱い
詳細情報
公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。
2017年12月号の記事を掲載致します。
その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。
不動産取引に必須の印紙税の知識(3)
1 印紙税法上の「契約書」についての誤解
意外と知らない印紙税の正しい知識として、今回は当事者の一方が作成する文書について扱います。契約書には印紙を貼らなければならないことは広く知られていると思います。そして、実務上、契約書には両当事者の署名・押印があるため、両当事者の署名・押印のある文書しか契約書にはあたらないと考えている方も少なくないと思います。しかし、両当事者の署名・押印のある文書だけが契約書になるわけではありません。当事者の一方が作成する文書であっても一定の場合には契約書になり、印紙を貼る必要があります。「両当事者の署名・押印のない文書は契約書にあたらず、印紙を貼らなくてよい」と考えていると、後に税務署から不納付の事実を指摘され、過怠税まで払うことになりかねません。
2 申込書、注文書、依頼書といった文書の取扱い
これから契約を締結しようとする者が相手方に対し、申込書、注文書、依頼書といった文書を交付することがあります。では、図1~図3のような文書を相手方に交付した場合、印紙を貼る必要はあるのでしょうか。結論としては、これらの注文書には全て印紙を貼る必要があります。
図1
工事注文書 平成29年10月12日 株式会社A外装 御中 平成28年4月1日付基本契約書第3条の規定に基づき下記のとおり注文致します。
株式会社B建設 |
*なお、平成28年4月1日付基本契約書第3条は、「個別の契約は、株式会社B建設の工事注文書の交付によって成立するものとする。」と規定している。
図2
工事注文書 平成29年10月12日 株式会社A外装 御中 平成29年9月30日付貴見積書に基づき下記のとおり注文致します。
株式会社B建設 |
図3
工事注文書 平成29年10月12日 株式会社A外装 御中 株式会社B建設 下記のとおり注文致します。ご確認の上、ご返送をお願い致します。
上記注文につき、承諾致しました。 平成29年10月14日 株式会社A外装 |
確かに、法律上、契約は申込みとそれに対する承諾によって成立しますから、単に申込みをした事実を証明するにすぎない申込書、注文書、依頼書といった文書は契約書にはなりません。しかし、こうした文書であっても、実質的には申込みとそれに対する承諾の事実、すなわち契約成立の事実を証明しているといえる場合があります。例えば、申込書、注文書、依頼書であっても次のような場合には、原則として契約書にあたり、印紙を貼る必要があります。
ア 契約当事者間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合
イ 見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく申込みであることが記載されている場合
ウ 契約当事者双方の署名又は押印がある場合
先に挙げた図1の注文書は上記アに、図2の注文書はイに、図3の注文書はウに、それぞれあたるため、契約書になります。
3 別に請書を作成する場合の取扱い
実務上、図1や図2のような注文書を作成した場合には、その後、改めて相手方から請書が交付されることがあります。このような場合には、注文書に契約の相手方が別に請書を作成することを記載しておけば、注文書は契約書にはなりません。前述のアやイの場合には、このような例外的な取扱いが認められています。したがって、相手方から請書が交付される場合には、注文書の文書中に「なお、注文をお引受けの場合には、別途請書を提出願います。」といった一文を記載しておけば、注文書は例外的に契約書にはなりません。改めて相手方から請書が交付される場合であっても、注文書にこのような記載をしない限り、例外的な取扱いは認められず、注文書にも請書にも印紙を貼る必要があります。したがって、相手方が請書を作成する場合には、注文書にこのような記載を漏れなくすることが印紙代を節約するポイントになります。なお、前述のウの場合には、アやイで認められるこのような例外的な扱いが認められないため、注意してください。
4 印紙を貼る必要のある者
では、図1~図3のように、前述のア~ウにあたる文書を作成した場合、誰が、いつ、印紙を貼る必要があるのでしょうか。結論としては、アとイの場合には、申込者が相手方に対して文書を送付する際に印紙を貼る必要があります。すなわち、図1や図2の場合には、株式会社B建設が、株式会社A外装にこの文書を送付する際に印紙を貼る必要があります。また、ウの場合には、申込者から相手方に文書が送付され、相手方はこれに署名・押印の上、申込者に返送することになりますが、相手方は申込者に返送する際に印紙を貼る必要があります。つまり、図3の場合には、株式会社A外装が、株式会社B建設に文書を返送する際に印紙を貼ることになるといえるでしょう。
今回は当事者の一方が作成する文書を取り上げ、印紙税実務における契約書の考え方を説明しました。当事者の一方が作成する文書であっても契約書になることがあるというのは意外に思われた方も多かったのではないでしょうか。次回以降もこの連載では実務上、誤解しやすい点や文書の書き方によって印紙代が変わってくる事例を取り上げる予定です。ぜひ、ご期待ください。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則
その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。