不動産取引に必須の印紙税の知識(1)FAXや電子メールで送付した文書の扱い
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公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で印紙税に関する連載が始まりました。
2017年10月号の記事を掲載致します。
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不動産取引に必須の印紙税の知識(1)
―意外と知らない正しい知識―
1 実は怖い印紙税の実務
不動産取引においては、取引金額が高額になることや多数の取引関係者が関与することから、様々な種類の文書が交わされます。不動産取引に関わる方々にとっては日々、 交わされる文書に印紙を貼るべきか否か悩まれることも多いのではないでしょうか。印紙税は文書の書き方ひとつで金額が大きく変わってくるものです。1通あたりの印紙代が少額であっても、それが何百通、何千通ともなれば、決して軽視できない金額になります。そこで、この連載では皆様の多くが悩まれる場面を取り上げ、基礎的なところから解説を行いたいと思います。
2 意外と知らない印紙税の正しい知識
印紙税の正しい知識は意外と知られていません。例えば、以下の文章は正しいでしょうか。
Q1 その文書の表題が「契約書」でない場合には、印紙を貼る必要はない。
Q2 契約の当事者の一方のみが作成する文書には、印紙を貼る必要はない。
Q3 契約書に印紙を貼っていれば、その後、契約内容を変更したことを記した書面を作成してもこれに印紙を貼る必要はない。
Q4 今後、契約をすることを約束した書面を作成しても印紙を貼る必要はない。
Q5 文書中にいくつか金額が書かれている場合には、必ず、これらの合計額を基に印紙代が決まる。
A1 印紙を貼るべき契約書にあたるかどうかは、文書の内容によって決まります。したがって、文書の表題が例えば「覚書」、「協定書」となっていても、 契約書にあたり、印紙を貼らなければならない場合があります。
A2 契約の当事者の一方のみが作成する文書であっても、契約書にあたり、印紙を貼らなければならない場合があります。
A3 契約の内容を変更したことを記した文書にも印紙を貼る必要があります。契約が成立したときに契約書を作り、印紙を貼っていたとしても関係がありません。
A4 将来、契約することを約束することを予約といい、予約したことを記した文書にも印紙を貼る必要があります。
A5 文書中にいくつか金額が書かれていたとしても、 必ずしもそれらを合計しなければならないわけではありません。合計額を基に印紙代が決まることもありますが、記載されている金額のうち1つの金額だけで印紙代が決まることもあります。
いかがでしたでしょうか。このように印紙税には誤りやすいポイントがいくつもあります。それをこの連載で学んでいただき、正しい知識を習得していただければと思います。
3 注文請書を郵送した場合の取扱い
図のような注文請書を相手方に郵送した場合、印紙を貼る必要はあるのでしょうか。
注文請書 平成29年8月28日 A 殿 B建設株式会社 代表取締役 C ㊞
よろしくお願い致します。 |
結論としては、印紙を貼る必要があります。 まず、この文書の表題は「注文請書」となっていて、 「契約書」にはなっていません。しかし、契約書にあたるか否かは文書の内容で判断されるというのは先に説明した通りです。案件名、工期、金額といった記載 からは、Aからこのような注文があったと考えることができます。そして、この注文請書には、「下記の通りお受けさせていただきます。」という記載がありますから、B建設株式会社がその注文に応じたことが分かります。したがって、このような工事を行うことが 両者の間で合意されているといえるので、この注文請書は契約書にあたります。そのため、印紙を貼る必要があります。また、契約当事者の一方のみが作成した文書であっても、印紙を貼らなければならない場合があることも、先に説明した通りです。
では、この注文請書にはいつまでに印紙を貼らなければならないのでしょうか。B建設株式会社がこの注文請書を作成したのは、Aに交付するためです。このような相手方に交付する目的で作成される文書については、相手方に交付をする時までに印紙を貼る必要があります。したがって、この注文請書をAに郵送する場合には、印紙を貼った上で郵送する必要があります。
では、この注文請書を作成はしたものの、実際には Aに交付しなかった場合にも印紙を貼らなければならないのでしょうか。このような相手方に交付する目的 で作成される文書は、相手方に交付をする時までに印紙を貼る必要があるというのは今、説明した通りです。 裏を返せば、相手方に交付をしなければ、印紙を貼る必要はないのです。したがって、注文請書を作成はしたものの、実際にはAに交付しなかった場合には印紙を貼る必要がありません。
4 注文請書をFAXや電子メールで送信した場合の 取扱い
それでは、3で例に挙げた注文請書を郵送の代わりにFAXや電子メールで送信した場合も印紙を貼る必要があるのでしょうか。 結論としては、印紙を貼る必要はありません。先ほど、注文請書は相手方に交付しなければ印紙を貼る必要がないと説明しました。ところで、FAXや電子メ ールでこの注文請書を送信した場合、Aに届くのは注文請書の画像データであって、文書そのものが届くわけではありません。したがって、FAXや電子メールで送信した場合には、Aに注文請書を交付したことにならないのです。そのため、印紙を貼る必要はありま せん。
では、A宅に設置されたFAX機器から出力された文書やAがメール添付された画像データを印刷した文書には印紙を貼る必要があるのでしょうか。 結論としては、これもまた印紙を貼る必要がありません。これらの文書はAが印刷しただけであって、B 建設株式会社からAに交付された文書ではないからです。 このように注文請書に印紙を貼る必要があるのは、 その文書の現物が両者の間でやり取りされた場合と考 えると理解しやすいでしょう。
5 消費税等の取扱い
3で例に挙げた注文請書には、「5,400,000円(うち 消費税等400,000円)」という記載があります。印紙代を計算する際、その計算の基となる工事代金は540万円と考えればいいのでしょうか、それとも消費税等を 除いた500万円と考えればいいのでしょうか。
結論としては、この注文請書では工事代金は500万円と考えて印紙代を計算することができます。しかし、 仮に「5,400,000円」とだけ記載されていた場合には、 実際には消費税等が含まれるとしても、工事代金は 540万円と考えて印紙代を計算しなければなりません。 ポイントとなるのは、工事代金と消費税等の額を分けて記載しているかどうかです。分けて記載している場 合には、消費税等を除いた金額で印紙代を計算することができ、その分、印紙代を節約することができます。 3の注文請書をAに交付した場合には、 2 千円(軽 減税率 1 千円)の印紙を貼ることになりますが、これを単に「5,400,000円」とだけ記載していた場合には、 1 万円(軽減税率 5 千円)の印紙を貼らなければなりません。
このように印紙税では、文書の書き方が非常に重要な意味を持ちます。文書の書き方1つで、場合によっては印紙代を払わずに済ませることもできます。冒頭でも説明した通り、これが何百通、何千通ともなれば、 決して軽視できない金額となります。次回以降もこの連載では、文書の書き方によって印紙代が変わってくる事例を取り上げる予定です。ぜひ、ご期待ください。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則
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